eスポーツは身体を大きく動かさない競技です。だからといって、身体に負担がかからないわけではありません。むしろ、同じ姿勢を長時間保ち、同じ動作を高頻度で反復し、画面を見続けるという条件は、身体にとってかなり特殊な負荷です。

プロ選手の練習時間は、1日10時間を超えることも珍しくありません。試合、練習試合、個人練習、振り返り、対戦相手の分析。これらが毎日続きます。しかも競技の性質上、深夜に及ぶことも多い。国際大会に向けた練習では、相手地域の時間帯に合わせて生活リズムを変えることもあります。

近年、チームがトレーナーやメンタルコーチを置く例が増えました。REJECT がトレーナー集団とオフィシャルパートナー契約を結んだのはその一例です。何が問題で、どう対処されているのか。現時点で分かっていることを整理します。

なお、以下は一般的な整理であり、医学的な助言ではありません。体調に不安がある場合は必ず医療機関を受診してください。

手首・腕・肩の障害

もっともよく知られているのが、上肢の障害です。

マウスを操作する動作は、手首と前腕の限られた筋肉を高頻度で使います。FPS 系のタイトルでは、細かい照準の調整を1試合で数千回繰り返すことになります。キーボードの操作も同様で、特定の指の動きが集中的に反復されます。

この反復が、腱や腱鞘の炎症を引き起こすことがあります。手首の痛み、指の動かしにくさ、前腕の張り。初期は休めば回復しますが、無理を続けると慢性化します。競技を退く理由として、手首の障害を挙げる選手は国内外にいます。

肩や首への負担も見過ごせません。デスクとモニターの高さが合っていないと、首を前に突き出した姿勢が固定されます。この姿勢が長時間続けば、首と肩の筋肉に持続的な緊張がかかり、頭痛や痺れにつながることがあります。

対策として推奨されるのは、姿勢と機材の調整、そして定期的な休憩です。モニターの高さを目線に合わせ、肘の角度が自然になるようにデスクと椅子を調整する。1時間ごとに立ち上がって肩と手首を動かす。当たり前のようですが、練習に集中していると忘れられがちです。

腰と背中

座り続けることによる腰への負担も大きい問題です。

座位は、立位よりも腰椎への圧力が高いとされています。前傾姿勢ではさらに増します。ゲームに集中しているとき、多くの人は無意識に前のめりになります。この姿勢が数時間続けば、腰への負荷は相当なものになります。

対策の基本は、椅子です。eスポーツ向けの椅子には、腰を支えるランバーサポートやリクライニング機能が備わっていますが、重要なのは製品よりも調整です。座面の高さ、背もたれの角度、肘掛けの位置。自分の体格に合わせて設定しなければ、機能は活きません。

もうひとつは、座り続けないことです。近年は、立って作業できる昇降デスクを導入するチームもあります。姿勢を変えられること自体が、負荷の分散になります。

体幹の筋力を維持することも有効とされます。腹筋と背筋が姿勢を支えられれば、腰にかかる負担は減ります。ジムでのトレーニングをチームの活動に組み込む例が増えているのは、この理由です。

目への負担

画面を見続けることによる目の疲労も、eスポーツに固有の問題です。

集中して画面を見ているとき、まばたきの回数は通常より大幅に減ります。まばたきが減れば涙の層が保たれず、目の表面が乾きます。乾燥は不快感だけでなく、視界のぼやけや痛みにつながります。

もうひとつ、ピント調節の固定があります。近い距離の画面を見続けると、目のピントを合わせる筋肉が緊張したままになります。この状態が長く続くと、遠くを見たときにピントが合いにくくなることがあります。

一般に推奨されるのは、定期的に遠くを見ること、意識的にまばたきをすること、目を温めること、室内の照明と画面の明るさの差を小さくすることです。加湿も有効とされます。

競技環境の側でも配慮ができます。モニターとの距離を適切に取る、映り込みを避ける配置にする、暗い部屋で明るい画面だけを見る状況を避ける。会場の照明設計にも関わる問題です。

睡眠

見落とされがちですが、もっとも影響が大きいのは睡眠かもしれません。

eスポーツの競技環境は、睡眠を妨げる条件が揃っています。練習が深夜に及ぶこと、就寝直前まで明るい画面を見ること、試合の興奮が残ること、国際大会で時差のある地域と練習すること。いずれも入眠と睡眠の質に影響します。

睡眠不足は、反応速度、判断の正確さ、感情の制御に影響することが知られています。競技成績に直結する能力ばかりです。にもかかわらず、練習時間を削って睡眠を確保するという判断は、現場ではなかなか採られません。

近年、睡眠を管理の対象として扱うチームが増えてきました。就寝・起床の時刻を記録する、練習の終了時刻を定める、就寝前の画面使用を制限する。睡眠の専門家を招く例もあります。

国際大会の遠征では、時差への適応が課題になります。到着後すぐに試合がある日程では、出発前から現地時間に生活を寄せておく調整が行われます。これは他の国際競技でも一般的な手法です。

食事と栄養

食生活も、競技環境の影響を受けやすい領域です。

練習が深夜に及べば食事の時刻は不規則になり、簡便な食事に偏りがちです。カフェインやエナジードリンクの摂取量が増えることもあります。集中力を保つために摂取したものが、睡眠を妨げるという循環も起こり得ます。

チームによっては、食事を活動の一部として管理しています。合宿所や施設で食事を提供する、栄養士が献立を監修する、食事の時刻を練習スケジュールに組み込む。他競技のプロチームでは一般的な取り組みが、eスポーツにも入ってきています。

もっとも、eスポーツの選手に必要な栄養は、他競技のアスリートとは異なります。大量のエネルギーを消費する競技ではないため、単純に「たくさん食べる」ことが正解にはなりません。集中力の維持と、体重・体調の管理が中心になります。

科学的な検証はまだ十分ではありません。eスポーツ選手に最適な食事とは何かという研究は始まったばかりで、確立された指針があるわけではないのが現状です。

メンタルヘルス

身体以上に深刻なのが、精神面の負荷かもしれません。

競技である以上、勝敗のプレッシャーがあります。加えてeスポーツでは、試合の様子が配信され、SNSで即座に評価されます。ミスをすれば、その場面が切り取られて拡散されることもあります。批判や中傷が直接届く環境は、他競技より過酷です。

チーム競技では、人間関係の負荷も加わります。5人で1つの判断を行う競技では、意思疎通のずれが敗因になります。責任の所在をめぐる摩擦が生じやすく、それが成績に跳ね返る。

また、成績以外の自己評価軸が乏しいという問題があります。若い時期から競技に専念すると、生活のほとんどが競技で占められます。負けが続いたときに、自分の価値そのものが揺らぐ感覚を持ちやすい構造です。

対策として、メンタルコーチやカウンセラーを置くチームが出てきました。SNSの利用にルールを設ける、批判的なコメントを選手が直接見ない仕組みをつくるといった運用も行われています。ただし、まだ標準的な取り組みとは言えません。

長時間配信という別の負荷

競技だけでなく、配信の負荷も無視できません。

日本のeスポーツチームの多くは、選手やクリエイターが日常的に配信を行います。配信は収入源であり、スポンサーへの提供価値でもあります。しかし、視聴者に向けて数時間話し続けることは、競技とは別の疲労を生みます。

配信の視聴者数は、頻度と時間に相関します。だから配信者は長く、頻繁に配信する動機を持ちます。競技の練習と配信を両立すれば、拘束時間は極端に長くなります。

実際、活動の休止を発表する配信者は少なくありません。関優太選手は2025年6月に表舞台での活動を無期限休止し、2026年5月にTwitchで配信を再開しています。長く続けることの難しさが、活動の中断という形で表れています。

配信を軸にした活動の構造は「ストリーマー経済はeスポーツをどう変えたか」で扱っていますが、健康の観点からは、収入の仕組みが稼働時間に直結していることが根本的な問題です。

トレーニングの導入

こうした課題に対して、チームはどう対応しているのでしょうか。

もっとも一般的なのが、身体トレーニングの導入です。ストレッチ、体幹トレーニング、有酸素運動。目的は競技力の直接的な向上というより、姿勢の維持、疲労の回復、睡眠の質の改善です。

REJECT は2026年、トップアスリートを支えるトレーナー集団とオフィシャルパートナーとして連携することを発表しました。他競技のアスリートを支えてきた専門家の知見を、eスポーツに持ち込む形です。

海外では、この取り組みがより進んでいます。専属のフィジカルトレーナー、理学療法士、栄養士、スポーツ心理の専門家をチームに置く例が報告されています。選手の稼働年数を延ばすことが、チームの投資回収に直結するためです。

日本では、チームの規模と予算の制約から、専門人材を常時抱えるのは容易ではありません。外部の事業者と契約する形が現実的な選択肢になっています。

ウォームアップという考え方

他競技では当然の「ウォームアップ」が、eスポーツでも取り入れられるようになりました。

試合前に、手首と指のストレッチを行い、軽い運動で体温を上げ、エイム練習用のソフトウェアで感覚を確認する。急に本番の集中状態に入るのではなく、段階的に上げていく考え方です。

競技後の「クールダウン」も同様です。試合直後は交感神経が高ぶった状態にあり、そのまま就寝しても寝つけません。軽いストレッチ、入浴、画面を見ない時間を挟むことで、切り替えを助けます。

こうした習慣は、選手個人の工夫として行われてきたものが、チームの標準的な手順として整理されつつある段階です。他競技で確立された方法論を、eスポーツの条件に合わせて調整する作業が続いています。

未成年選手の問題

とくに配慮が必要なのが、未成年の選手です。

eスポーツでは、10代でプロとして活動を始める例があります。成長期にある身体に、長時間の同一姿勢と反復動作を課すことの影響は、成人とは異なる可能性があります。しかし、この点についての研究は十分ではありません。

学業との両立も課題です。練習時間を確保すれば学業に充てる時間が減り、進路の選択肢が狭まります。競技を退いたあとの人生のほうが長いことを考えれば、この配分は慎重に決める必要があります。

契約上の保護も問題です。日本のeスポーツでは選手が個人事業主として業務委託契約を結ぶ形が多く、未成年の場合は保護者の同意が要ります。労働時間の上限も、雇用契約でなければ適用されません。

海外では、未成年選手の労働時間や学業の確保をリーグの規則で定める例があります。日本では、この種の規則は整備されていません。教育との関係は「学校とeスポーツ」で扱っています。

「アスリート」と呼ぶことの意味

eスポーツ選手をアスリートと呼ぶことには、しばしば違和感が示されます。しかし健康管理の文脈では、この呼称には実務的な意味があります。

アスリートとして扱うということは、コンディションを管理の対象とし、専門家の関与を前提とし、稼働に上限を設けるということです。「ゲームをしているだけ」という認識のままでは、これらの投資は正当化されません。

他競技の知見を持ち込む際にも、この枠組みは有効です。トレーナー、栄養士、心理の専門家。すでに確立された職能を、eスポーツの条件に合わせて適用する。ゼロから作る必要はありません。

一方で、他競技の方法をそのまま持ち込めばよいわけでもありません。eスポーツの負荷は、心肺機能や筋力への負荷ではなく、局所の反復と姿勢の固定と認知的な集中です。必要な対策も、それに合わせて設計されなければなりません。

研究の現状

eスポーツと健康に関する研究は、まだ始まったばかりです。

競技中の心拍数や視線の動きを計測した研究、長時間プレーが認知機能に与える影響を調べた研究、選手の障害の発生率を調査した研究などが報告されていますが、対象者数が限られるものが多く、確立した知見と呼べる段階には至っていません。

競技環境が急速に変わることも、研究を難しくしています。10年前のタイトルと現在のタイトルでは、要求される操作も試合時間も異なります。過去のデータが現在に当てはまるとは限りません。

必要なのは、長期にわたる追跡調査です。選手が何歳から競技を始め、どんな負荷を受け、何歳でどんな理由で退いたのか。この記録が蓄積されなければ、予防のための指針は作れません。

現時点で言えるのは、他競技で有効とされる基本——十分な睡眠、適度な運動、姿勢の管理、定期的な休憩——は、eスポーツでも有効である可能性が高いということです。当たり前の対策を実行できるかどうかが、現実的な分かれ目になります。

遠征という特殊な負荷

国際大会への遠征は、通常とは違う負荷を選手にかけます。

時差がもっとも直接的です。到着後すぐに試合がある日程では、生活リズムが現地時間に合いません。対策として、出発前から現地時間に生活を寄せておく調整が行われます。他の国際競技でも一般的な手法です。

環境の変化もあります。使い慣れた機材が使えない、練習場所が違う、食事が変わる、宿泊先の環境が違う。いずれも小さな変化ですが、積み重なるとコンディションに影響します。

移動そのものの疲労も無視できません。長時間のフライトは、姿勢の固定と乾燥という点で、eスポーツの練習と似た負荷をかけます。到着直後に高い集中を求めるのは無理があります。

滞在期間の長さも要因です。大会が数週間に及ぶ場合、その間ずっと緊張状態が続きます。休養日をどう設けるか、リラックスする時間をどう確保するかが、後半の成績に効いてきます。

チームによっては、遠征時にトレーナーやスタッフを帯同させます。費用はかかりますが、成績への影響を考えれば合理的な投資です。

「休む」ことの設計

もっとも実行が難しいのが、休養です。

競技者は、休むことに罪悪感を持ちやすい。ライバルが練習している間に自分が休んでいると考えれば、休養は不安の源になります。とくに若い選手ほどこの傾向が強い。

しかし、休養なしに高い水準を維持することはできません。疲労が蓄積すれば判断が鈍り、練習の効果も落ちます。休むことは怠けることではなく、練習の一部です。

実務的には、休養を予定に組み込むのが有効です。「調子が悪いから休む」ではなく、「毎週この日は休む」と決めておく。自分の判断に委ねると休まないため、制度として決めてしまうほうが機能します。

質の高い休養も設計の対象です。休養日にゲームの動画を見続けていれば、目と脳は休んでいません。まったく別の活動——運動、外出、睡眠——に充てるほうが回復します。

チームがこれを管理するのは、選手の健康のためだけではありません。稼働年数を延ばすことが、投資回収に直結するからです。合理的な経営判断としても、休養の設計は必要です。

選手寿命を延ばすということ

最後に、なぜこの問題に取り組む必要があるのかを整理します。

選手にとって、競技生活が長くなることは、そのまま収入の期間が長くなることを意味します。20代半ばで退くのと30代まで続けられるのとでは、生涯の設計が大きく変わります。

チームにとっても、選手の稼働年数は投資回収に直結します。獲得と育成にかけたコストを回収する前に選手が退けば、その投資は損失になります。健康管理への投資は、経営判断としても合理的です。

競技にとっては、経験のある選手が長く残ることが水準の維持につながります。格闘ゲームシーンで40代の選手が第一線にいることは、そのジャンルの厚みそのものです。

そして、引退後の生活にも関わります。競技で身体を損なった状態で次のキャリアに移るのは、本人にとってあまりに不利です。この点は「引退したあと、選手はどこへ行くのか」で扱っています。

身体を守ることは、競技を守ることでもあります。

引退の理由を記録する

健康管理の議論でもっとも不足しているのが、データです。

選手が何歳で競技を始め、どんな負荷を受け、何歳でどんな理由で退いたのか。この記録が体系的に残っていません。手首の障害で退いた選手が何人いるのか、腰の問題はどれくらい起きているのか。実態が分からなければ、予防の指針も作れません。

他競技では、こうした調査が行われています。競技団体が選手の障害を集計し、頻度の高いものに対策を打つ。何十年もかけて蓄積されたデータが、いまの予防プログラムの根拠になっています。

eスポーツでこれが進まない理由はいくつかあります。競技の歴史が浅いこと、統括する組織が競技団体ほど強くないこと、選手が個人事業主として活動しており追跡が難しいこと。

それでも、始めるなら早いほうがよい。引退した選手への聞き取りだけでも、傾向は見えてきます。何が起きているかを知ることが、対策の最初の一歩です。

引退後の進路の問題は「引退したあと、選手はどこへ行くのか」で扱っていますが、そこでも記録の欠如は共通の課題です。

参考・出典

本記事は執筆時点(2026年8月)の公開情報にもとづく一般的な整理であり、医学的な助言ではありません。体調に不安がある場合は医療機関を受診してください。