海外のeスポーツ大会では、優勝賞金が数億円になることも珍しくありません。ところが日本国内の大会は、長らく賞金が10万円単位にとどまっていました。選手の実力の問題ではありません。法律の問題です。
正確にいえば、法律が禁じているというより、法律の適用関係がはっきりしなかったことが原因でした。主催者は「これは違法かもしれない」というリスクを取れず、結果として賞金額を抑える判断をしてきた。曖昧さそのものがブレーキになっていたわけです。
ここで問題になる法律は3つあります。景品表示法、刑法の賭博罪、そして風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)です。それぞれ性質がまったく違い、対策も別々に必要になります。この記事では、何がどう引っかかるのか、実務でどう設計されているのかを整理します。
なお、以下は執筆時点(2026年8月)の一般的な整理であり、個別の大会の適法性を保証するものではありません。実際に大会を開く際は必ず専門家の確認を受けてください。
目次
景品表示法 —— 「景品類」にあたるかどうか
もっとも頻繁に論点になるのが景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)です。
この法律は、商品やサービスの取引に付随して提供される「景品類」に上限を定めています。目的は消費者保護です。おまけが豪華すぎると、消費者が商品そのものの品質ではなく景品につられて選んでしまう。それを防ぐための規制です。
ここで重要なのは「取引に付随して」という条件です。景品類にあたるのは、商品を買った人、あるいは買おうとする人に対して提供される経済上の利益に限られます。逆にいえば、購入と関係なく提供されるものは景品類ではありません。
問題は、ゲームの大会がこの条件に当てはまるように見えることでした。参加者はそのゲームソフトの購入者であり、主催するのはそのゲームを売っているパブリッシャーで、賞金を出すのも同じ会社。この構図だと「商品の購入者を対象とした懸賞」と読めてしまいます。
懸賞による景品類の上限は、取引価額の20倍または10万円のいずれか低いほう、というのが一般的な規制です。ゲームソフトが1万円なら20万円と10万円を比べて10万円が上限。ここから「日本のeスポーツ大会の賞金は10万円まで」という理解が広まりました。
この理解は正確ではありません。上限が問題になるのは、あくまで賞金が景品類にあたる場合だけです。しかし当時は「あたらない」と言い切る根拠が乏しく、主催者は安全側に倒す判断をしました。
景品類にあたらない設計
現在では、賞金を景品類から外す設計がいくつも整理されています。代表的なものを挙げます。
参加費を集めて賞金に充てる。参加者から集めた参加費をそのまま賞金原資にする場合、賞金は商品の取引に付随したものではありません。ただし後述する賭博罪の論点が出てきます。
主催者をパブリッシャー以外にする。ゲームを販売していない第三者が主催し、その第三者が賞金を出すなら、商品の取引との付随性は生じません。放送局やイベント会社が主催する大会がこの形にあたります。
購入を条件にしない。大会会場に機材を用意し、ソフトを持っていなくても参加できるようにすれば、購入との結びつきが切れます。
賞金を仕事の報酬として位置づける。選手が職業としてその競技を行っており、大会への出場が業務にあたるなら、賞金は報酬であって景品類ではありません。プロ野球選手の年俸やプロゴルファーの賞金が景品規制の対象にならないのと同じ理屈です。
このうち最後の整理を制度化しようとしたのが、2018年に日本eスポーツ連合(現・一般社団法人日本eスポーツ協会、JeSU)が導入したプロライセンス制度でした。制度の設計と、そこで起きた論争については「プロライセンス制度は何を変えたのか」で詳しく扱います。
刑法の賭博罪 —— 参加費を賞金にすると何が起きるか
参加費を集めて賞金にする形式には、別の論点があります。刑法185条以下の賭博罪です。
賭博罪の成立には、おおむね3つの要素が必要とされます。当事者が財物を賭けること、勝敗が偶然の事情に左右されること、そして勝者が敗者の財物を取得することです。
参加費を集めて優勝者に渡す大会は、この構図に形式的には似ています。参加者が金を出し、勝った者が総取りする。ここが問題になります。
ただし、2つの逃げ道があります。ひとつは「偶然性」の要件です。賭博罪でいう偶然性は、当事者にとって勝敗が確実に予見できないことを指しますが、技量が支配的に作用する競技については、賭博にあたらないとする理解が一般的です。囲碁や将棋の賞金付き大会が問題にならないのはこのためです。eスポーツも、多くのタイトルは技量が結果を左右する競技であり、この点では説明がつきます。
もうひとつは「賭けた財物の行方」です。参加費が会場費や運営費に充てられ、賞金は主催者やスポンサーが別途用意している場合、参加者同士が財物をやり取りしている構図にはなりません。実務では、参加費と賞金原資を明確に分離する設計が一般的です。
つまり、参加費を集めること自体が問題なのではなく、参加費がそのまま賞金になる構図が避けられるべきだ、ということになります。
風営法 —— 会場と設備の問題
3つ目が風営法です。これは賞金ではなく、大会を開く「場所」に関わります。
風営法は、ゲームセンターなどの遊技場営業を規制対象にしています。景品を提供する営業や、深夜の営業には許可や届出が必要です。eスポーツ施設が常設のゲーム機を置いて客に遊ばせる場合、この規制が及ぶ可能性があります。
論点になったのは、eスポーツ施設が「ゲームセンター」にあたるのかという点でした。PCを並べて時間貸しする形態は、ネットカフェに近いようにも、ゲームセンターに近いようにも見えます。適用の判断は施設の実態によるため、開業前に所轄の警察署に相談するのが実務上の標準的な進め方になっています。
大会を単発で開く場合は、常設営業ではないため風営法の直接の対象になりにくい。ただし会場の使用条件や消防法との関係は別途確認が要ります。数百人を集めるイベントであれば、会場側の指示に従うのが通常です。
施設側の論点については「eスポーツ施設は日本に根づくのか」でも扱っています。
3つの法律が同時にかかる面倒さ
ここまで見たように、日本でeスポーツの大会を開く際には、性質のまったく異なる3つの法律を同時に検討する必要があります。
| 法律 | 何を守る法律か | 問題になる場面 | 主な対策 |
|---|---|---|---|
| 景品表示法 | 消費者の選択 | パブリッシャー主催・購入者対象の高額賞金 | 主催者を分ける/購入条件を外す/報酬として整理する |
| 刑法(賭博罪) | 社会の風紀 | 参加費をそのまま賞金にする | 賞金原資を参加費と分離する |
| 風営法 | 営業の秩序 | 常設のeスポーツ施設 | 事前に所轄警察署へ相談する |
厄介なのは、対策が互いに干渉することです。景品表示法を避けるために参加費方式にすると賭博罪の論点が出てくる。賭博罪を避けるためにスポンサー資金を賞金にすると、そのスポンサーがパブリッシャーだった場合に景品表示法へ戻る。三すくみに近い構造があります。
海外にこの面倒がないわけではありませんが、多くの国では賞金付きの技能競技(skill-based competition)が明確に賭博と区別されており、設計の自由度が高い。日本の複雑さは、eスポーツを念頭に置いた法律が存在しないまま、既存の法律を当てはめてきたことに由来します。
実務ではどう設計されているか
現在、国内の主要な大会は次のような設計をとることが多くなっています。
大会の主催をパブリッシャー以外の事業者が担い、賞金はスポンサー協賛金から支出する。参加は無料または実費程度で、参加費は運営費に充てて賞金原資とは分ける。参加資格に商品の購入を含めない。選手がチームに所属している場合は、大会出場が業務であることを契約上明確にしておく。
こうした設計が定着したことで、国内でも高額賞金の大会が開かれるようになりました。ライセンスの有無を条件にしない大会も普通に行われています。
一方で、この設計にはコストがかかります。主催を別法人にする、契約書を整える、法務のレビューを通す。小規模な大会やコミュニティ主催の大会にとっては重い負担です。結果として、賞金の出せる大会と出せない大会の二極化が進みました。草の根の大会が賞金なしで運営され続けている状況は、いまも変わっていません。
海外の制度と比べると何が違うのか
日本の複雑さは、海外と比べるとより輪郭がはっきりします。
米国では、州ごとに賭博規制が異なりますが、技能が結果を支配する競技(skill-based contest)と偶然に左右される賭博(game of chance)を区別する考え方が定着しています。eスポーツの大会賞金はほとんどの州で前者に整理され、主催者が構造を工夫する必要はほとんどありません。景品規制に相当する制度も、日本の景品表示法ほど賞金額に直接効く形にはなっていません。
韓国では、2000年代から国がeスポーツを産業として位置づけ、文化体育観光部の所管のもとで振興策が組まれてきました。制度が先に用意されたため、賞金の扱いをめぐって主催者が萎縮する状況は生じにくい構造です。
中国では、2003年に国家体育総局がeスポーツを正式なスポーツ種目として認定しました。競技として制度に組み込まれているぶん、賞金は競技の報酬として自然に扱われます。
欧州各国は制度がまちまちですが、賞金付きの技能競技を賭博と区別する枠組みは概ね共有されています。
日本だけが特別に厳しい法律を持っているわけではありません。違うのは、eスポーツを想定した整理が存在しないまま、既存の法律を当てはめてきたことです。既存法の解釈で対応する以上、その解釈が固まるまでは誰も踏み込めません。この時間差が、そのまま国内シーンの停滞期になりました。
賞金以外の収入をどう設計するか
賞金の制約は、日本のeスポーツの収益構造そのものを形づくりました。
賞金が出せないなら、選手はどこから収入を得るのか。答えはスポンサー料と、チームからの給与です。実際、国内チームの収入はスポンサー料に大きく依存しており、賞金の比率は低いままです。海外のトップチームが大会賞金で年間数億円を稼ぐのとは、収入の組成が異なります。
この構造には副作用があります。成績と収入が直結しないということです。大会で勝っても賞金が小さいなら、選手の収入を左右するのは知名度と露出になります。結果として、競技力よりも発信力のある選手のほうが稼げるという逆転が起こりやすい。
配信を軸にした活動が国内で発達したのは、この構造の裏返しでもあります。Crazy Raccoon のように、自主大会と配信で観客を集めるモデルが成立したのは、賞金という収入源が細かったからだ、という見方もできます。詳しくは「ストリーマー経済はeスポーツをどう変えたか」で扱います。
近年は賞金の制約が緩んだため、この構造も少しずつ動いています。ただし一度できあがった収益モデルはすぐには変わりません。制度の影響は、制度が変わったあとも長く残ります。
大会を開く側が実際に確認すること
最後に、これから大会を開こうとする人が確認すべき事項を整理しておきます。
主催者は誰か。 ゲームのパブリッシャーが主催して賞金を出す場合、景品表示法の検討が必要になります。第三者が主催し、その第三者が賞金を出すなら論点は小さくなります。
参加条件に商品の購入が含まれるか。 「対象ソフトの購入者限定」とすると取引への付随性が生じます。会場に機材を用意する、あるいは購入を条件にしない設計にできるかを検討します。
賞金の原資はどこか。 参加費をそのまま賞金にする形は避け、スポンサー協賛金など別の原資を用意します。参加費は運営費に充てる、と規約に明記しておくのが安全です。
選手との関係はどうなっているか。 チーム所属の選手が業務として出場するのであれば、賞金は報酬として整理しやすくなります。契約書に大会出場が業務に含まれることを書いておきます。
会場と設備は適法か。 常設のeスポーツ施設を運営する場合は、風営法の適用について所轄の警察署に事前相談します。単発のイベントでも、会場の使用条件と消防法上の収容人数は確認が必要です。
これらはいずれも、規模の大小にかかわらず検討すべき項目です。小さな大会だから関係ない、ということにはなりません。
選手の側から見た問題 —— 税金と契約
法規制の話は主催者側の論点として語られがちですが、選手にも影響があります。
賞金は選手の所得です。どの所得区分にあたるかは活動の実態によって変わり、事業所得になる場合も一時所得になる場合もあります。海外の大会で得た賞金には現地で源泉徴収されることがあり、租税条約による調整が必要になる場合もあります。国際大会に出る選手にとっては実務上の負担です。
チームに所属する選手の場合、賞金の分配ルールも重要です。チームが取り分を持つのか、選手が全額受け取るのか、コーチやアナリストへの配分はどうするのか。契約に明記されていなければ後で揉めます。
日本ではeスポーツ選手の契約が定型化しておらず、チームごとに条件が異なるのが実情です。選手が個人事業主として契約する形が多く、給与所得者としての保護は及びません。契約期間、移籍、肖像権の扱いを含め、選手側が確認すべき事項は少なくありません。
この点は「引退したあと、選手はどこへ行くのか」で扱うキャリアの問題とも接続します。
賞金以外の「経済上の利益」
景品表示法が対象にするのは現金だけではありません。経済上の利益全般です。
ゲーミングPC、モニター、周辺機器といった賞品。旅行や大会への招待。ゲーム内アイテムやスキン。いずれも金銭的な価値があれば、景品類にあたる可能性があります。
とくに注意が要るのがゲーム内アイテムです。そのゲーム内でしか使えないものでも、市場価値が認められれば経済上の利益になり得ます。パブリッシャーが主催する大会で高額なアイテムを賞品にする場合、検討が必要です。
一方で、表彰の性質が強いものは扱いが異なります。トロフィー、盾、賞状。それ自体の市場価値がわずかであれば、景品類には該当しにくい。
参加賞の扱いも論点になります。参加者全員に配るノベルティは「総付景品」として別の基準が適用され、上限も懸賞とは異なります。
実務としては、賞品も賞金と同じ枠組みで検討するのが安全です。「現金ではないから大丈夫」という判断は、根拠がありません。
未成年の参加者
もうひとつ、実務で問題になりやすいのが未成年の扱いです。
契約の問題があります。大会への参加は主催者との契約であり、未成年の場合は保護者の同意が必要になります。オンラインの申込フォームだけで完結させると、後に問題が生じる可能性があります。
賞金の受け取りも同様です。高額の賞金を未成年が受け取る場合、保護者の関与と、税務上の扱いの確認が要ります。
参加資格の年齢制限を設ける大会もあります。使用タイトルの年齢制限(CERO レーティング)に合わせるのが基本ですが、賞金の扱いを考慮して独自に制限を設ける例もあります。
個人情報の扱いも慎重さが要ります。未成年の氏名や顔を配信で出す場合、保護者の同意が前提になります。
これらは法規制というより実務の作法ですが、整えておかなければ後で紛争になります。とくに10代の選手が活躍することの多いモバイルタイトルでは、避けて通れない論点です。
何が変われば楽になるのか
現状を改善する方向はいくつか考えられます。
ひとつは、技能競技の賞金についての明確な整理です。技量が結果を支配する競技の賞金は賭博にあたらない、という理解自体は共有されていますが、eスポーツについて明示的に示した公的な整理があれば、主催者の判断は格段に楽になります。
もうひとつは、業界の標準的な契約書式の整備です。選手契約、大会規約、賞金分配。いずれもひな形が公開されていれば、小規模な主催者でも設計を誤りにくくなります。
いずれにせよ、賞金をめぐる複雑さは、eスポーツが法制度の想定していなかった形で育ったことの表れです。制度が後追いすること自体は珍しくありません。問題は、その追いつくまでの期間に何が失われるかです。日本の場合、その期間はおよそ10年に及びました。
参考・出典
- 景品表示法|消費者庁(消費者庁)
- 景品表示法に関するQ&A|消費者庁(消費者庁)
- 警察庁(風俗営業等の規制に関する所管官庁)
- プロライセンス制度|一般社団法人日本eスポーツ協会(JeSU)(日本eスポーツ協会)
- Wikipedia「日本eスポーツ連合」
- Wikipedia「eスポーツ」
本記事は執筆時点(2026年8月)の公開情報にもとづく一般的な整理です。個別の大会・施設の適法性を保証するものではありません。実施にあたっては必ず専門家および所轄官庁の確認を受けてください。




