ここ数年、地方自治体がeスポーツに関わる事例が急速に増えました。県が主催する大会、市が整備する施設、商店街のイベント、高齢者向けの体験会。予算がつき、担当部署ができ、首長が挨拶に立つ。
一方で、単年度で終わった取り組みも少なくありません。予算がついた年だけ大会が開かれ、翌年には何も残っていない。地域とeスポーツの関係は、成功例と同じくらい、続かなかった例に学ぶところがあります。
地域は何を期待し、何が実現し、何が続かなかったのか。整理します。
目次
地域がeスポーツに期待するもの
まず、自治体がeスポーツに取り組む動機を整理します。実際には複数が混ざっています。
若年層との接点がもっとも多く挙げられます。自治体の施策は高齢者向けに偏りがちで、10代・20代に届く手段が乏しい。eスポーツはこの層に直接届く数少ないチャネルです。
交流人口の増加も期待されます。大会を開けば県外から参加者と観客が来ます。宿泊、飲食、交通の消費が生まれる。スポーツ大会の誘致と同じ発想です。
シティプロモーションの側面もあります。「eスポーツに力を入れている自治体」という認知は、先進的なイメージにつながります。報道されやすいのも利点です。
産業振興を掲げる例もあります。関連企業の誘致、雇用の創出、IT人材の育成。ただし、この効果はもっとも見えにくく、短期では検証できません。
高齢者福祉という切り口も増えました。ゲームを通じた認知機能の維持や、外出のきっかけづくり。競技としてのeスポーツとは別の文脈です。
国民スポーツ大会という舞台
地域とeスポーツを結びつけた大きな出来事が、国民体育大会(現・国民スポーツ大会)の文化プログラムとしての採用です。
2019年の茨城国体で、eスポーツが文化プログラムとして実施されました。都道府県の代表チームが集まり、複数のタイトルで競う形式です。以降、開催県が変わっても継続して実施されています。
この枠組みの意味は大きい。都道府県単位で代表を選ぶという構造が生まれたためです。各県は予選を開き、代表を選び、本大会に送り出す。この過程で、県内のプレイヤーが把握され、コミュニティが可視化されます。
自治体にとっても、国体という既存の枠組みに乗ることで、予算の説明がしやすくなります。まったく新しい事業を立ち上げるより、既存事業の一部として組み込むほうが行政の手続きは通りやすい。
一方で、文化プログラムという位置づけには限界もあります。正式競技ではないため、扱いは大会ごとに変わりえます。継続性の保証はありません。
地方拠点のチーム
自治体の取り組みとは別に、地方を拠点とするチームの存在も重要です。
QT DIG∞(旧 Sengoku Gaming)は福岡市を拠点とし、2017年2月から活動しています。2026年4月には運営法人の株式会社戦国が九州の通信事業者である QTnet に吸収合併されました。地域のインフラ企業が直接チームを抱える形になり、地域とeスポーツの結びつきという点で注目される事例です。
競技面でも成果を出しています。League of Legends の LJL では2020年春季に準優勝、荒野行動では2023年の全国大会を制覇、e-Motorsports 部門ではグランツーリスモのワールドシリーズを2024年に優勝しました。2026年には VALORANT Challengers Japan の Season Final も制しています。
CAG は大阪を拠点とし、運営は東証上場のブロードメディア株式会社の子会社であるブロードメディアeスポーツ株式会社です。関西の格闘ゲームコミュニティと近い距離で活動してきました。
SCARZ は神奈川県川崎市をホームタウンに掲げています。プロスポーツのフランチャイズに近い形で地域と結びつく試みは、国内のeスポーツチームでは早い部類に入ります。
FAV gaming は埼玉県所沢市の「ところざわサクラタウン」内に専用施設を構えています。運営は株式会社KADOKAWA Game Linkage で、地域の複合施設と一体になった拠点です。
選手と地域
選手個人が地域と結びつく例もあります。
ネモ選手は2021年から、熊本の企業がスポンサードする Saishunkan Sol 熊本に所属しています。地方企業が選手を直接抱える形は、国内の格闘ゲームシーンでは近年増えてきた形態です。
地域の企業にとって、選手を支援する動機は全国区の企業とは少し違います。採用広報(若い人材に企業名を知ってもらう)、地域貢献(地元の話題づくり)、既存事業との接続(通信、施設、教育)といった目的が混じります。
選手にとっても、地域に紐づくことは意味があります。全国区のチームでの競争より、地域での存在感のほうが確立しやすい場合があるためです。地元のイベントや学校訪問といった活動も、地域拠点だからこそ成立します。
続く取り組みと続かない取り組み
ここからが本題です。何が続き、何が続かないのか。
続かない典型は、単発の大会です。予算がつき、業者に委託し、会場を借り、大会を開く。当日は盛り上がる。しかし翌年、予算がつかなければ何も残りません。地域にプレイヤーが増えたわけでも、運営できる人が育ったわけでもない。
続く取り組みにはいくつかの共通点があります。
第一に、地域の中に運営できる人がいること。外部の業者に丸投げすると、その業者との契約が切れた時点で終わります。地域のコミュニティが運営に関われば、予算が減っても規模を縮めて続けられます。
第二に、既存の場所や事業に乗っていること。新しい施設を建てるのではなく、既存の公民館や商業施設を使う。新規事業を立ち上げるのではなく、生涯学習や青少年育成の枠に組み込む。固定費が小さければ続きます。
第三に、目的が具体的であること。「地域活性化」では検証も改善もできません。「県内の高校のeスポーツ部を10校にする」「年間の県外からの参加者を500人にする」といった具体的な目標があれば、続ける根拠を示せます。
第四に、担当者が変わっても引き継がれること。自治体の担当者は数年で異動します。個人の熱意に依存した事業は、その人がいなくなると止まります。
施設という論点
地域の取り組みで議論が分かれるのが、施設です。
自治体がeスポーツ施設を整備する例があります。PCを並べ、大会が開ける設備を用意する。利用者が集まれば拠点になりますが、集まらなければ維持費だけがかかります。
慎重に見るべき点がいくつかあります。機材は数年で陳腐化すること。ゲーミングPCの性能要求は上がり続け、5年前の構成では新しいタイトルが快適に動きません。更新の予算を最初から組み込んでおく必要があります。
運営人員も要ります。予約管理、機材のメンテナンス、トラブル対応、イベントの企画。無人では回りません。
風営法の確認も必要です。常設の施設で客にゲームを遊ばせる形態は、規制の対象になる可能性があります。開設前に所轄の警察署に相談するのが実務上の標準です。この点は「eスポーツ施設は日本に根づくのか」で詳しく扱っています。
既存の施設に間借りする、民間の施設と連携する、といった選択肢のほうが現実的な場合も多くあります。
教育との接続
地域の取り組みでもっとも継続性が高いのは、教育との接続です。
県内の高校にeスポーツ部ができれば、そこには毎年新しい生徒が入ります。単発のイベントと違い、構造として継続します。地域の大会も、参加する学校があれば毎年開けます。
自治体ができる支援としては、機材の貸与、会場の提供、指導者の紹介、大会の主催などがあります。学校側は機材とネットワーク環境の確保に苦労しているため、この部分の支援は効果が見えやすい。
地元のチームが学校を訪問し、選手が実演や講話を行う取り組みもあります。プロの姿を見せることは、生徒にとって進路の具体像になります。QT DIG∞ のような地方拠点のチームは、この役割を果たしやすい位置にいます。
一方で、慎重さも要ります。学業との両立、活動時間の管理、健康への配慮。学校でeスポーツを扱う際の論点は「学校とeスポーツ」で扱っています。
高齢者向けの取り組み
近年増えているのが、高齢者を対象とした取り組みです。
介護予防、認知機能の維持、外出のきっかけづくりといった文脈で、ゲームを用いた活動が行われています。使用されるのは競技性の高いタイトルではなく、操作が簡単で協力プレーができるものが中心です。
この分野は、競技としてのeスポーツとは目的も手段も異なります。同じ「eスポーツ」という言葉でくくられることで混乱が生じる場面もあります。
効果についても、まだ検証が進んでいる段階です。参加者の主観的な満足度は高く報告されていますが、認知機能への影響を科学的に示すには長期の追跡が必要です。過度な効能を謳うことは避けるべきでしょう。
とはいえ、外出の機会が増える、世代間の交流が生まれるといった効果は、それ自体で意味があります。自治体が福祉の文脈で取り組む理由としては十分です。
「経済効果」をどう見るか
自治体の資料でよく見るのが「経済効果◯億円」という数字です。この読み方には注意が要ります。
経済効果の試算は、参加者数×一人あたりの消費額×波及係数といった形で算出されます。前提となる数値の置き方で結果は大きく変わり、比較には向きません。
より確認すべきなのは、実際に何が起きたかです。県外からの参加者は何人だったか。宿泊した人は何人か。翌年も来たか。地域の店舗の売上は動いたか。こうした実測値のほうが、次の判断には役立ちます。
eスポーツ市場全体の統計も同様です。国内市場は2024年で約161億円、2026年には200億円を超える見通しとされていますが、この数字は事業として動いた金額の推計であり、地域の取り組みの成否とは直接結びつきません。統計の読み方は「eスポーツ市場規模の読み方」で扱っています。
民間との役割分担
地域の取り組みが続くかどうかは、民間との役割分担にも左右されます。
自治体が得意なのは、場所の提供、信用の付与、教育機関との接続、初期の呼び水となる予算です。逆に苦手なのは、継続的な運営、機材の更新、コミュニティの維持といった日常的な作業です。
民間が得意なのは、運営のノウハウ、集客、機材の調達、大会の設計です。苦手なのは、初期の資金と、公共施設へのアクセスです。
うまく続いている例では、この分担が明確になっています。自治体が会場と信用を提供し、民間や地域のコミュニティが運営する。役割が曖昧なまま自治体がすべてを抱えると、担当者の異動で止まります。
地域のチームが介在する形も有効です。QT DIG∞ のように、地域に根を張ったチームがあれば、自治体・企業・学校・コミュニティをつなぐ結節点になります。
地域の企業を巻き込む
自治体の予算だけに頼る取り組みは、予算が切れれば終わります。地域の企業が関わる形にできるかが、継続性を左右します。
採用広報が、地域企業にとってもっとも分かりやすい動機です。若い人材の確保に苦労している企業は多く、10代・20代に企業名を知ってもらえる機会には価値があります。大会の協賛、賞品の提供、会場の提供。金額が小さくても関わり方はあります。
既存事業との接続も動機になります。通信事業者、電気工事、PC販売、飲食、宿泊。eスポーツのイベントは、これらの事業と接点があります。QT DIG∞ の運営法人が九州の通信事業者 QTnet に吸収合併されたのは、この接続がもっとも強い形で表れた例です。
社内の福利厚生として関わる企業もあります。社員向けの大会、部活動としての支援。従業員の交流施策としてeスポーツを使う発想です。
重要なのは、企業にとっての利益を説明できることです。「地域のために協力してください」では続きません。何が得られるのかを具体的に示せれば、寄付ではなく事業として関わってもらえます。
スポンサーシップの考え方は「スポンサーはeスポーツに何を求めているのか」で扱っています。
他地域の真似をしない
最後に、もっとも実務的な指摘をします。他の自治体の成功例をそのまま真似しないことです。
ある県で機能した取り組みが、別の県で機能するとは限りません。人口規模、交通の便、既存のコミュニティの厚さ、地元企業の顔ぶれ。前提条件が違えば、同じ施策でも結果は変わります。
まず確認すべきは、その地域にすでに何があるかです。プレイヤーのコミュニティはあるか。大会を運営した経験のある人はいるか。関心を持っている企業はあるか。学校に部活はあるか。
何もないところに施設を建てても人は来ません。逆に、すでに活動している人たちがいるなら、その活動を支えるだけで大きく変わります。会場を貸す、広報を手伝う、備品を用意する。地味ですが、これが続きます。
eスポーツは、地域にとって手段であって目的ではありません。何のためにやるのかが定まっていれば、規模の大小は問題になりません。定まっていなければ、どれだけ予算をかけても翌年には何も残らない。この差は、これまでの数年でかなりはっきりしてきました。
予算のつけ方という実務
自治体の取り組みが続くかどうかは、予算の組み方にかなり左右されます。
単年度の事業として組むと、翌年に継続する保証がありません。担当者が異動すれば、継続の理由を説明できる人もいなくなります。実際、これが「1年で終わった」の最大の原因です。
既存事業の一部として組むと続きやすい。生涯学習、青少年育成、産業振興、福祉。いずれかの既存の枠に位置づければ、その枠が続く限り継続できます。新規事業として立ち上げるより、行政の手続き上も通りやすい。
複数年度の計画に入れるのも有効です。総合計画や地方創生の関連計画に記載されていれば、単年度の予算査定で切られにくくなります。
規模を小さく始めることも重要です。初年度に大きな予算をつけて施設を整備すると、翌年以降の維持費が負担になります。会場を借りる、既存の機材を使う、小規模な大会から始める。実績を積んでから拡大するほうが、結果として長く続きます。
このあたりは、eスポーツに固有の話ではありません。地域の文化・スポーツ振興全般に共通する実務の知恵です。
評価の指標をどう置くか
続けるためには、続ける根拠を示す必要があります。
参加者数はもっとも基本的な指標です。ただし人数だけでは、リピーターが増えているのか新規が入れ替わっているのか分かりません。継続参加率を併せて見る必要があります。
県外からの参加者は、交流人口の観点で意味があります。宿泊を伴ったか、他の観光地に立ち寄ったか。実測できれば説得力があります。
継続的な活動の数も指標になります。県内の高校eスポーツ部の数、定期的に集まっているコミュニティの数。イベントの動員より、こちらのほうが「根づいた」ことを示します。
担い手の数が最終的にはもっとも重要です。大会を運営できる人、機材を扱える人、実況・解説ができる人。この人数が増えていれば、行政が手を引いても活動は続きます。
「経済効果◯億円」という数字は、算出の前提次第で大きく変わり、次の判断には使いにくい。実測できる指標を少数決めて、毎年同じ方法で測るほうが実務的です。統計の読み方は「eスポーツ市場規模の読み方」で扱っています。
地方のプレイヤーが直面すること
施策を考えるうえで、地方のプレイヤーが実際に何に困っているかを押さえておく必要があります。
対戦相手の少なさが第一です。オンラインで対戦できるとはいえ、同じ水準の相手と定期的に練習するには、ある程度の母集団が要ります。地方では、上位のプレイヤーが数人しかいないことも珍しくありません。
大会への参加費用も負担です。全国大会はほぼ東京・大阪で開かれます。交通費と宿泊費を自己負担すれば、参加のハードルは高い。予選がオンラインでも、決勝がオフラインなら同じ問題が生じます。
情報の遅れもあります。最新の戦術や環境の変化は、人が集まる場所で先に共有されます。地方にいると、その伝播が遅れます。オンラインの情報網が整ったことで差は縮まりましたが、消えてはいません。
進路の見えなさも課題です。近くにプロの選手がいなければ、その道が現実的に見えません。チームの練習環境も、指導者も、身近にない。
自治体ができる支援は、この4つに対応させると具体的になります。集まる場所を用意する、遠征費を補助する、情報を届ける機会をつくる、プロと接する機会をつくる。抽象的な「振興」より、こうした具体的な不便を1つずつ埋めるほうが効きます。
参考・出典
- Wikipedia「Sengoku Gaming」
- Wikipedia「CYCLOPS athlete gaming」
- Wikipedia「SCARZ」
- Wikipedia「FAV gaming」
- Wikipedia「ネモ (プロゲーマー)」)
- eスポーツの市場と推移|一般社団法人日本eスポーツ協会(日本eスポーツ協会)
- スポーツ庁|文部科学省(文部科学省)
- 警察庁(風俗営業等の規制に関する所管官庁)
本記事は執筆時点(2026年8月)の公開情報にもとづく一般的な整理です。




