10年前、学校でゲームをすることは基本的に禁止されていました。持ち込みが禁止され、休み時間の使用も認められず、進路指導で肯定的に語られることはまずありませんでした。
いま、高校にeスポーツ部があり、専門学校にeスポーツの学科があり、大学にサークルがあります。全国規模の高校生大会が開かれ、参加校は年々増えています。この変化は、ゲームに対する社会の見方が変わったことの、もっとも分かりやすい指標かもしれません。
しかし、教育の場にeスポーツが入ることには、期待と同時に慎重な議論もあります。何が期待され、何が懸念されているのか。現状を整理します。
目次
何が変わったのか
まず、変化の背景を押さえておきます。
2018年に日本eスポーツ連合(現・一般社団法人日本eスポーツ協会、JeSU)が設立され、eスポーツという言葉が公的な文脈で使われるようになりました。同年のアジア競技大会(ジャカルタ)では公開競技として6種目が実施され、報道の扱いも変わります。
学校の側にも事情がありました。少子化により、部活動の維持が難しくなっている学校があります。運動部に必要な人数が集まらない、指導者がいない、施設の維持費が重い。こうした状況で、少人数で始められ、屋内で完結し、身体的なハンディキャップの影響が小さい活動として、eスポーツが注目されました。
私立学校では、広報の観点もあります。他校にない特色を打ち出すことは、生徒募集に直結します。eスポーツ部の設立が報道されれば、それ自体が学校の認知につながります。
そして、生徒の側の関心があります。ゲームは10代にとってもっとも身近な娯楽であり、それが正課の活動として認められるなら、参加する動機は十分にあります。
高校の部活動
高校でのeスポーツ活動は、部活動または同好会として行われることが一般的です。
活動内容は、練習と大会参加が中心です。全国規模の高校生大会が複数開催されており、地区予選を経て全国大会に進む形式が採られています。使用タイトルは大会ごとに定められ、年齢制限(CERO レーティング)に配慮したタイトルが選ばれる傾向があります。
指導者の確保は課題です。運動部と違い、教員にeスポーツの競技経験があることは稀です。実際には、生徒が自主的に運営し、教員は顧問として管理面を担う形が多い。外部指導者を招く例もありますが、費用の問題があります。
設備も課題です。競技に必要な水準のPCは高価で、学校の予算で揃えるのは容易ではありません。ネットワーク環境も、学校の回線は一般に制限が多く、対戦に適さない場合があります。企業からの機材提供や、地域のeスポーツ施設との連携で対応する例が見られます。
活動時間の管理も重要です。長時間の練習が学業や睡眠を圧迫しないよう、活動時間に上限を設ける運用が推奨されます。この点は「eスポーツ選手の身体をどう守るか」で扱った健康管理の話とも重なります。
専門学校とeスポーツ学科
専門学校では、eスポーツを冠した学科・コースが多数設置されています。
カリキュラムの内容は学校によって異なりますが、競技の実技だけでなく、大会運営、配信技術、映像編集、マーケティング、英語といった科目が組み合わされるのが一般的です。プロ選手になれる人数は限られるため、業界の周辺職種への就職を視野に入れた設計になっています。
この設計は現実的です。eスポーツ業界にはプロ選手以外の職種が多数あります。大会運営、配信のオブザーバーやディレクター、チームのマネージャー、アナリスト、広報、営業。いずれも専門的な知識を要する職能です。実務の話は「eスポーツ大会はどうつくられるのか」で扱っています。
一方で、注意すべき点もあります。学科の名称が「eスポーツ」であることと、その卒業生がeスポーツ業界に就職できることは、別の話です。業界全体の求人数は限られており、学科の定員がそれを上回れば、多くの卒業生は別の分野に進むことになります。
進学を検討する際は、カリキュラムの内容、卒業後の進路実績、業界との接続の実際を確認することが重要です。「プロになれる」という期待だけで判断するのは危険です。
大学の状況
大学では、サークルとしての活動が中心です。公認団体として認められる例が増え、大学対抗の大会も開かれています。
日本の大学には、北米のような競技奨学金の制度は一般的ではありません。北米では、eスポーツの奨学金を出す大学が多数あり、選手として活動しながら学位を取得できる仕組みが整っています。競技を退いたあとの選択肢が最初から確保されている点で、キャリア設計上の意味は大きい。
日本でも、eスポーツを研究や教育の対象とする動きは出てきています。競技のデータ分析、配信技術、産業としての研究。学術的な蓄積が進めば、業界の意思決定に使える知見が増えます。
大学生の時期は、プロを目指す選手にとって重要な分岐点でもあります。競技に専念するか、学業を優先するか、両立を図るか。この選択を支える仕組みが日本には乏しく、多くの場合は個人の判断に委ねられています。
期待されている教育効果
教育の場でeスポーツが評価される理由として、いくつかの効果が挙げられます。
チームでの協働です。5人で1つの判断を行うタイトルでは、役割分担、情報共有、意思決定の手順が求められます。これは他の集団活動と共通する能力であり、教育的な価値が認められやすい部分です。
分析と改善のサイクルもあります。試合を録画して振り返り、何が悪かったかを特定し、次に活かす。この習慣は競技以外にも転用できます。
多様な生徒の参加という側面もあります。身体的な理由で運動部に参加しにくい生徒、集団活動が苦手な生徒が、eスポーツなら参加できる場合があります。実際、特別支援教育の文脈でeスポーツを活用する取り組みも報告されています。
情報技術への関心につながる面もあります。PCの構成、ネットワークの仕組み、配信の技術。競技を通じてこれらに触れることが、進路の選択肢を広げることがあります。
ただし、これらの効果はいずれも「そうなりうる」という話であり、実証されたものではありません。活動の設計次第で、効果は大きくも小さくもなります。
慎重に見るべき点
一方で、懸念も存在します。
学業への影響がもっとも直接的です。練習に時間を割けば、学習に充てる時間は減ります。部活動全般に共通する問題ですが、eスポーツは自宅でも同じ活動を継続できるため、時間の管理が難しい面があります。
健康への影響も懸念されます。成長期の身体に長時間の同一姿勢と反復動作を課すことの影響は、十分に検証されていません。睡眠時間の確保も課題です。
依存のリスクについても議論があります。WHO は2018年6月に ICD-11 で「ゲーム症(障害)」を嗜癖行動症群に位置づけ、2019年5月に採択されました。ただし、この分類をめぐっては科学的根拠が十分でないとする批判もあり、議論は続いています。この点は「ゲーム障害をめぐる議論」で扱っています。
保護者の理解も現実的な課題です。学校が認めても、家庭が反対すれば生徒は参加できません。活動の目的と時間管理の方針を、保護者に説明できることが前提になります。
香川県の条例が示したもの
教育とゲームをめぐる議論を象徴するのが、香川県ネット・ゲーム依存症対策条例です。
この条例は2020年3月18日に可決・成立し、同年4月1日に施行されました。18歳未満を対象に、ゲームの利用時間を平日1日60分、休日90分までとする目安を定め、スマートフォン等の使用を中学生以下は21時まで、それ以外は22時までとする内容です。学習目的の利用は対象外とされ、罰則の規定はありません。
条例の制定過程では、パブリックコメントが実施されました。県民からの意見2,613件のうち賛成2,268件・反対333件、事業者からの意見73件のうち賛成1件・反対68件という結果が公表されています。県民と事業者で賛否が大きく分かれた点が特徴的です。
2020年9月30日には高松市の親子が県を提訴し、2022年8月30日の判決で条例は合憲と判断されました。原告が期限までに控訴しなかったため、判決は確定しています。一方、香川県弁護士会は2020年5月25日に条例の廃止等を求める会長声明を出しています。
この一件は、eスポーツを教育の場に置くことが、社会的な合意を前提とする営みであることを示しました。学校が認めても、地域や家庭の理解がなければ活動は続きません。
部活動として成立させる条件
実際に高校でeスポーツ部を運営するには、いくつかの条件が要ります。
活動の目的を明確にすること。競技での成績を目指すのか、交流と楽しみを重視するのか、業界への進路を視野に入れるのか。目的によって、必要な設備も練習の内容も変わります。
時間の上限を決めること。平日は何時まで、休日は何時間まで、テスト期間は活動しない。学業との両立を制度として担保する必要があります。
使用タイトルを選ぶこと。年齢制限(CERO レーティング)に適合し、対戦の公平性が保たれ、大会が存在するタイトルを選ぶ。暴力表現の強いタイトルは、学校の活動として説明が難しい場合があります。
指導と管理の体制をつくること。顧問の教員がすべてを担うのは負担が大きいため、外部指導者や地域の施設との連携を検討します。
保護者への説明を行うこと。活動の目的、時間、費用、安全管理。これらを文書で示せることが、理解を得る前提になります。
地域との接続
学校のeスポーツ活動は、地域の取り組みと接続することがあります。
地方自治体がeスポーツ大会を開催し、そこに地域の高校が参加する。地域のeスポーツ施設を学校が練習場所として利用する。地元企業が機材を提供する。こうした連携は、学校側の設備の課題を解決する現実的な手段です。
QT DIG∞(旧 Sengoku Gaming)のように、地方を拠点とするeスポーツチームが地域の教育の場に関わる例もあります。選手が学校を訪問し、競技の実演や講話を行う。プロの姿を見せることは、生徒にとって進路の具体像になります。
一方で、地域の取り組みは予算の制約を受けます。単年度の事業として実施され、翌年には継続されないこともある。学校側が中長期の計画を立てにくいという問題があります。地域とeスポーツの関係は「eスポーツと地域創生」で扱っています。
プロを目指すという選択
学校でeスポーツに取り組む生徒のうち、プロを目指す人はどれくらいいるのでしょうか。
正確な統計はありませんが、プロとして生計を立てられる選手は国内で多く見積もっても数百人規模とされます。一方、競技的なプレーをしている人は推計約419万人(『日本eスポーツ白書2025』、2024年時点)です。比率としては極めて小さい。
これはeスポーツに限った話ではありません。プロ野球選手になれる高校球児の比率も同様に小さい。問題は、その現実が生徒と保護者に正しく伝わっているかどうかです。
競技を目指すこと自体は否定されるべきではありません。重要なのは、並行して別の選択肢を確保することです。学業を続ける、業界の周辺職種を知る、競技で得た経験を言語化しておく。これらは、プロになれなかった場合の保険であると同時に、プロになった場合のセカンドキャリアの準備でもあります。
引退後の進路については「引退したあと、選手はどこへ行くのか」で扱っています。競技を退いたあとの人生のほうが長い、という事実は変わりません。
指導者をどう育てるか
教育の場でeスポーツを扱ううえで、もっとも不足しているのが指導者です。
必要な能力は複数あります。競技への理解、生徒の健康管理、時間管理、保護者への説明、大会参加の手続き。競技経験があるだけでは足りませんし、教員としての経験だけでも足りません。
現状では、教員が独学で学ぶか、外部の指導者に依頼するかの二択です。指導者向けの研修や資格の仕組みは、まだ体系的には整備されていません。
他競技では、競技団体が指導者資格を発行し、講習と更新を通じて水準を保つ仕組みがあります。eスポーツでも同様の枠組みが検討される余地はあります。ただし、タイトルごとに競技の内容が異なるため、統一の資格をつくるのは容易ではありません。
現実的には、大会運営団体や地域の組織が講習の機会を提供し、経験を共有していく形になるでしょう。この蓄積には時間がかかります。
大学のeスポーツ
高校に続いて、大学でも活動が広がっています。
日本の大学では、サークルとしての活動が中心です。公認団体として認められる例が増え、大学対抗の大会も開かれています。高校と違って活動時間の制約が緩く、機材も個人で持っている学生が多いため、活動しやすい環境ではあります。
北米との違いは、競技奨学金の有無です。北米ではeスポーツの奨学金を出す大学が多数あり、選手として活動しながら学位を取得できます。競技を退いたあとの選択肢が最初から確保されている点で、キャリア設計上の意味は大きい。
日本でこの仕組みが広がらない理由のひとつは、大学スポーツ全体の制度の違いです。奨学金と競技を結びつける仕組みが限定的で、eスポーツだけを例外にする理由もありません。
一方で、研究の対象としての広がりはあります。競技のデータ分析、配信技術、産業としての研究、健康への影響。学術的な蓄積が進めば、業界の意思決定に使える知見が増えます。現状ではデータが不足している領域が多く、研究の余地は大きい。
大学生の時期は、プロを目指す選手にとって重要な分岐点でもあります。競技に専念するか、学業を優先するか、両立を図るか。この選択を支える仕組みが日本には乏しく、多くの場合は個人の判断に委ねられています。
何を教えるのか
最後に、根本的な問いに触れます。学校でeスポーツを扱うとき、何を教えることになるのでしょうか。
競技の技術を教えることが目的なら、それは部活動として自然です。ただし、上達の手段はオンラインに豊富にあり、学校でなければできないことではありません。
学校でしかできないのは、集団としての活動の設計です。目標を共有し、役割を分け、対立を調整し、振り返りを行う。これは競技の内容とは独立した、集団活動としての学びです。
もうひとつは、社会との関係を学ぶことです。ゲームに対する社会の視線、時間管理の必要性、健康への配慮、著作権や配信のルール。これらを実際の活動を通じて考えることには、教育としての意味があります。
eスポーツが学校に入ったことは、ゲームが「やめさせるもの」から「どう付き合うかを教えるもの」に変わったことを意味します。この変化の是非は、これから10年の実践が答えを出すことになります。
大会という目標があること
部活動が続くかどうかは、目標があるかどうかに強く依存します。
運動部には、地区大会から全国大会までの階段があります。練習の先に何があるかが見えているから、日々の活動に意味が生まれます。
eスポーツでも、高校生を対象とした全国規模の大会が複数開催されています。地区予選を経て全国大会に進む形式が採られ、参加校は年々増えています。この階段があることが、部活動としての成立を支えています。
大会の存在は、学校が活動を認める根拠にもなります。「大会に出るための活動」と説明できれば、遊びではないことを示しやすい。保護者への説明も同様です。
一方で、大会に偏りすぎることの弊害もあります。勝つことが目的化すれば、練習時間が伸び、学業を圧迫します。参加できるのは上位の生徒だけになり、他の部員の居場所がなくなる。運動部で長く問題になってきた構図が、そのまま持ち込まれる可能性があります。
使用タイトルの選定も、大会に依存します。大会が採用しているタイトルを練習することになるため、大会側の選定が学校の活動内容を実質的に決めます。年齢制限(CERO レーティング)への配慮を含め、主催者の責任は小さくありません。
部員が集まらない場合
現実には、部を作っても人が集まらない例もあります。
理由はいくつか考えられます。使用タイトルが合わないこと。生徒が普段遊んでいるタイトルと、大会で使われるタイトルが一致していなければ、参加の動機は弱くなります。
設備が不十分なこと。動作が重いPCで練習しても上達しませんし、楽しくもありません。数を揃えるより、少数でも適切な環境を用意するほうが結果につながります。
活動の目的が曖昧なこと。競技を目指すのか、交流を楽しむのか。どちらでもよいのですが、決まっていないと参加する側も態度を決められません。
時間帯が合わないこと。放課後の限られた時間では、対戦の相手が揃わない場合があります。オンラインで自宅から参加できる形を併用する例もありますが、活動の管理は難しくなります。
小規模でも続けることのほうが、大きく始めて止まるより価値があります。生徒が卒業しても次の代が入る仕組みが作れているかどうかが、数年後の差になります。
参考・出典
- eスポーツとは|一般社団法人日本eスポーツ協会(JeSU)(日本eスポーツ協会)
- eスポーツの市場と推移|一般社団法人日本eスポーツ協会(日本eスポーツ協会・『日本eスポーツ白書2025』より)
- Wikipedia「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」
- Wikipedia「ゲーム障害」
- Gaming disorder(WHO)(世界保健機関)
- スポーツ庁|文部科学省(文部科学省)
- Wikipedia「Sengoku Gaming」
本記事は執筆時点(2026年8月)の公開情報にもとづく一般的な整理です。




