日本の競技シーンを下から支えているのは、公式リーグでも世界大会でもありません。週末に公民館や貸し会議室、ネットカフェの一角で開かれる、参加費数千円の小さな大会です。主催しているのは企業ではなく、その日たまたま会場を押さえた個人であることも珍しくありません。
こうした大会は長いあいだ、権利関係の説明がつかないまま黙認されてきました。ゲームの画面を人前に映し、対戦を配信し、参加費を集める。そのどれもが、厳密にはゲーム会社の著作物の利用にあたります。権利者が問題にしなかったから続いてきた、という状態が20年以上続いていたのです。
その状態が、2023年から2026年にかけて一気に文書化されました。任天堂が2023年11月に「コミュニティ大会」という区分をつくってルールを明文化し、カプコンが2026年4月に同じ方向の枠を定め、Riot Games は2026年6月に逆方向、つまり大幅な緩和へ動きました。同じ「草の根大会を認める」という目的に対して、三社の答えは揃っていません。この記事は執筆時点(2026年9月)の各社ガイドラインをもとに、その違いと、実際に大会を開く側が負っているものを整理します。
目次
「コミュニティ大会」という区分はどこから来たのか
ゲームの対戦大会を開くこと自体は、法律で禁じられているわけではありません。問題になるのは、その過程でゲームの映像や音楽、キャラクターといった著作物を、私的な利用の範囲を超えて使う点です。会場のスクリーンに試合を映せば上映にあたり、配信すれば公衆送信にあたります。権利者が許諾していなければ、形式的には著作権侵害が成立しうる構図になります。
長く続いてきたのは、権利者が「シーンが育つことは自社の利益にもなる」と判断し、事実上黙認する運用でした。1990年代から2000年代にかけて、格闘ゲームの大会の多くはゲームセンターの店舗大会として開かれ、参加費も賞品も店舗の裁量で決まっていました。2003年から続いた「闘劇」のような大規模な大会も、ゲーム会社が主催したものではなく、アーケード業界の側から立ち上がった興行です。権利者が明確に許諾を出していたわけではない状態のまま、競技としての文化だけが先に育っていきました。
ただし黙認は、いつ撤回されるか分からないという不安定さと表裏です。主催者は会場を押さえ、機材を運び、参加者から金を集めた後で「やめてください」と言われる可能性を抱えたまま準備をすることになります。配信が当たり前になった2010年代以降は、大会の様子が権利者の目に触れやすくなり、この不安定さはかえって強まりました。
そこで各社が採ったのが、「この範囲に収まるものはコミュニティ大会と呼び、許諾を取らなくてよい」と宣言する方式です。境界を数値で示し、その内側なら権利行使をしないと約束する。主催者にとっては予測可能性が生まれ、権利者にとっては大会の規模と性格をコントロールできる。ガイドラインはこの二つの要請の折り合いとして生まれています。
任天堂が2023年に引いた線
任天堂は2023年10月24日に「ゲーム大会における任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を公開し、同年11月15日から発効させました。日本国内で開かれる大会、または日本に居住する主催者が対象です。
ここで定義された「コミュニティ大会」は、個人が主催する非営利で小規模な大会を指します。小規模の目安は出場者がオンラインで300人以下、オフラインで200人以下。この範囲で、かつガイドラインを守っているかぎり、任天堂は著作権侵害を主張しないとしています。法人や団体が主催する場合はこの枠から外れ、別途の申請と許諾が必要になります。
金額の線も具体的です。オフライン大会の参加費は一人あたり2,000円以下、観戦料は1,500円以下。集めた金額は大会の運営費に充てることが前提で、運営費を超えた分は出場者や観客に返すことが求められます。第三者から金銭や物品、サービスの提供を受けること、つまりスポンサーを付けることは認められません。賞品にも上限が設けられ、現金や金券は認められていません。
一連の条件が示しているのは、任天堂が「コミュニティ大会」を興行ではなく同好会の集まりの延長として位置づけているということです。学校のゲームサークルについては条件付きの例外も置かれており、参加する学校の数が限られ、学校間の優劣を示すものにならない範囲であれば、法人格を持つ学校が関与しても差し支えないという扱いになっています。教育の場での利用に別の配慮がなされている点は、部活動としてのeスポーツが広がっている現状を踏まえたものと読めます。
任天堂はあわせて、出場者と観客に向けた規約も別に用意しています。ガイドラインが主催者に向けた文書であるのに対し、こちらは大会に参加する側・見る側が守るべきことを定めたものです。主催者だけでなく参加者の行為も著作物の利用にかかわるという前提に立った構成で、大会を「開く」だけでなく「出る」「見る」局面まで文書化した点は、他社に先行しています。
カプコンが2026年に定めた枠
カプコンは2026年4月28日、『ストリートファイター6』などを対象とする「コミュニティ大会開催ガイドライン」を公開しました。対象は『ウルトラストリートファイターIV』『ストリートファイターV チャンピオンエディション』『ストリートファイター6』のほか、『ストリートファイター 30th アニバーサリーコレクション インターナショナル』や『カプコンファイティング コレクション』といった収録タイトルにも及びます。
金額の上限は任天堂とほぼ同じで、参加料は一人あたり税込2,000円まで、オフラインの観戦料は一人あたり税込1,500円まで。パブリックビューイングでの観戦料徴収は認められていません。特徴的なのは参加人数の条件が料金の有無で変わる点で、有料の大会は64人以内、無料の大会は256人以内とされています。金銭が動く大会ほど規模を絞る、という設計です。
もう一つカプコン独自の条件が、会計の公開義務です。大会の開催にかかわるすべての会計書類を、誰でも閲覧できる Web や SNS で公開することが求められます。参加費を運営費に充てるという建前を、事後に検証可能な形にしておくという考え方です。
賞品の扱いは制定後に一度動きました。当初は賞状やトロフィーなど金銭的価値のないものに限られ、Amazon ギフトカードのような金券は認められていませんでしたが、2026年7月23日の改定で「換金・転売を目的としない物品」まで広がり、食品を含む地域の特産品やコミュニティゆかりの記念品が例示されました。現金や金券が禁じられている点は変わりません。地方で開かれる大会が、その土地のものを賞品にできるようになった格好です。
Riot Games は上限を外した
三社のなかで方向が違うのが Riot Games です。同社は2026年6月18日、『VALORANT』のコミュニティ大会ガイドラインを刷新しました。従来は大会の規模に応じて Small / Medium / Major の三段階に分け、それぞれに参加費・賞金・スポンサー収入の上限を設けていましたが、この階層を廃止し、単一のライセンスに統一しています。
金額面では、参加費・賞金総額・スポンサー収入の上限がいずれも撤廃されました。旧制度では Small 区分の賞金総額が1万ドル、Medium が5万ドルといった上限が設けられていましたが、これらが外れています。観戦料の徴収や配信の有料化も可能になり、イベント開催期間の制限も撤廃されました。手続きも簡素化され、多くの場合はフォームを提出すれば Riot からの返答を待たずに開催できます。
ただし無条件ではありません。ギャンブル、暗号資産・NFT、銃器、アルコール、たばこ、政治活動といった業種のスポンサーは引き続き認められていません。金額ではなく誰から金を受け取るかで線を引く方式に切り替えた、と言い換えられます。Riot はこの改定を、2027年からの新しい VCT 体制に向けた取り組みの一環とし、コミュニティ主催者の負担を減らすことが目的だと説明しています。
旧制度が三段階の区分を持っていたことには理由がありました。規模が大きくなるほど、公式リーグとの境界が曖昧になり、視聴者にとって「どれが公式の大会なのか」が分かりにくくなるためです。Riot はその整理を、区分ではなくブランド利用のルールと禁止業種の指定で担保する方向へ移したことになります。主催者から見れば、自分の大会がどの区分に当たるかを判断する手間が消えた点が大きい変更です。
一方で、株式会社ポケモンの『Pokémon UNITE』向けガイドラインは逆側に振れています。非営利のイベントでは参加料や観戦料の支払いをイベント参加の条件にできず、スポンサーからの物品・サービス・金銭の提供も受けられません。開催にあたっては、そのイベントが株式会社ポケモンの主催・協賛ではないことを明示する義務も課されています。
整理すると、執筆時点(2026年9月)の各社の姿勢は次のように分かれます。
| 権利者 | 参加費 | 賞金・賞品 | スポンサー |
|---|---|---|---|
| 任天堂 | オフラインのみ2,000円以下 | 上限あり/現金・金券は不可 | 不可 |
| カプコン | 2,000円以下(有料なら64人以内) | 現金・金券は不可/記念品や特産品は可 | 不可 |
| Riot Games(VALORANT) | 上限なし | 上限なし | 可(業種の制限あり) |
| 株式会社ポケモン(Pokémon UNITE) | 参加条件にできない | — | 不可 |
どのタイトルで大会を開くかによって、できることがまるで違うのが現状です。複数タイトルを同じ会場で並行して開くような催しでは、タイトルごとに参加費の扱いを変えなければならない場面すら生じます。競技のルールそのものが企業の商品であることの帰結は、「パブリッシャーが競技シーンを持つということ」でも扱っています。
開催者が実際に負担しているもの
ガイドラインが整っても、大会が開けるかどうかは別の問題です。実際の障壁は、会場費と人手にあります。
『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』のコミュニティ大会「篝火」は、その規模を示す例です。2020年12月に第1回が開かれ、2021年12月にゲーム本体の更新が終了した後も参加者は増え続け、2026年5月3日から5日には幕張メッセでの開催に至りました。参加・観戦を合わせて4,000人規模に達しており、ユーザー主導の大会としては異例の規模です。
注目すべきは運営体制で、スタッフは全員がボランティアです。定例会議に参加するメンバーが約60名、当日スタッフを含めると約130名。平日は通常の仕事をしながら、週に一度、夜に会議を開いて準備を進めています。撤収時に観客が自分で椅子を片付け、モニターの設営を早く着いた参加者が手伝うといった慣習も、コミュニティの側から自然に生まれたものだと紹介されています。
とはいえ、篝火のような規模に届く大会は例外です。多くのコミュニティ大会は、参加者が数十人、会場は貸し会議室かネットカフェの一角という規模で開かれています。この層で主催者が負うのは、会場費、モニターや変換器といった機材の調達、当日の進行、そして参加者の受付と精算です。対戦表の作成や結果の集計は大会運営用のオンラインサービスに頼れるようになりましたが、機材を車に積んで運び、開場前に配線を済ませる作業は依然として人手でしかこなせません。
会場費や設営費を主催者が立て替え、参加費で運営費を分担するという構造は、規模が小さい大会ほど主催者個人のリスクになります。参加費の上限が2,000円と定められているタイトルでは、会場費を賄うために必要な人数が逆算で決まってしまい、集まらなければ主催者の持ち出しになります。ガイドラインが定める上限は、同時に大会の採算ラインを規定しているという側面があります。大会運営の工程そのものについては「eスポーツ大会はどうつくられるのか」で整理しています。
賞金と法律が重なる場所
各社が現金・金券を賞品から締め出しているのは、権利者の都合だけによるものではありません。日本では、大会の賞金に景品表示法・刑法の賭博罪・風営法という三つの法律が同時にかかわってきます。参加費を集めてその一部を賞金として配る形は、構成の仕方によっては賭博罪の議論に触れかねません。
企業が主催する大会であれば、法務部門が設計を詰め、必要なら弁護士の確認を経て実施できます。しかし個人が週末に開く大会に、同じ体制は望めません。現金を扱わせないという線引きは、主催者を法的な危うさから遠ざける効果を持ちます。カプコンが会計の公開を求めているのも、集めた金が運営費に充てられていることを外形的に示させるための仕組みと読めます。
カプコンが2026年7月の改定で「換金・転売を目的としない物品」まで賞品の範囲を広げたのも、この線引きを保ったままコミュニティ大会の魅力を増やそうとする調整と読めます。現金でなければよい、という基準は一見あいまいですが、換金性という一点に絞れば主催者にも判断がつきます。地域の特産品を賞品にすれば、その土地で大会を開く意味も生まれます。
一方で、賞金が出せないことは「上を目指す場」としての機能を制限します。コミュニティ大会で結果を残しても、それが収入につながらないため、競技を続ける動機は本人の意欲に依存します。この線引きが妥当かどうかは見方が分かれるところで、賞金をめぐる日本固有の制約については「eスポーツの賞金はなぜ複雑なのか」で詳しく扱っています。
枠があることの功罪
ガイドラインの整備を歓迎する声は、主催者側から強く出ています。これまで「たぶん大丈夫だろう」で進めていた部分に文書上の根拠ができ、会場や協力者に説明しやすくなったためです。学校や自治体の施設を借りる場面では、権利者のガイドラインを示せるかどうかが可否を分けることもあります。
他方で、明文化は「そこから外れたものは認められない」という線でもあります。黙認されていた時代には、規模がやや大きい大会や、地元企業が場所を提供してくれる大会も、事実上は開けていました。スポンサーを一律に禁じる条件は、資金面での持続性を断つことにもなります。数値の上限が実態に合っているかは、タイトルごとに検証が必要な段階にあります。
Riot Games の緩和は、この点への一つの回答と見ることもできます。上限を外し、主催者が自分の判断で規模と資金を設計できるようにする方向です。ただし緩和が大会の質や持続性を高めるかどうかは、まだ結果が出ていません。任天堂・カプコンの「小さく保つ」設計と、Riot の「委ねる」設計のどちらが競技シーンの土台を厚くするのかは、これから数年の各タイトルの草の根大会の数と規模が答えを出すことになります。
いずれの方向を採るにせよ、大会を実際に開くのはガイドラインではなく人です。会場を押さえ、機材を運び、対戦表を組む人がいなければ、どれだけ枠が整っても大会は一つも開かれません。国内のトップ選手の多くが、こうした小さな大会から出てきたという事実は変わらないままです。
参考・出典
- ゲーム大会における任天堂の著作物の利用に関するガイドライン(任天堂・2023年)
- 任天堂のゲームを利用したコミュニティ大会への出場および観戦に関する規約(任天堂)
- 任天堂が“コミュニティ大会”に関するガイドラインを公開(Game*Spark・2023年10月24日)
- カプコン コミュニティ大会開催ガイドライン(カプコン)
- カプコン、『ストリートファイター6』など向け「コミュニティ大会開催ガイドライン」を策定(AUTOMATON・2026年4月28日)
- 『スト6』を含む「コミュニティ大会開催ガイドライン」をカプコンが公開(電ファミニコゲーマー・2026年4月28日)
- カプコン、『ストリートファイター6』非公式大会などの賞品として「地域特産品」もOKと発表(AUTOMATON・2026年7月23日)
- 『VALORANT』コミュニティ大会の新ガイドライン公開、参加費・賞金・スポンサー収入・許諾の制限を緩和(Negitaku.org・2026年6月19日)
- VALORANT コミュニティ大会開催ガイドライン(Riot Games)
- Pokémon UNITE のイベント実施に関するガイドライン(株式会社ポケモン)
- 運営スタッフは全員ボランティア ユーザー主導のスマブラ大会『篝火』、異例の幕張メッセ開催を叶えた原動力(Real Sound・2026年5月)



