eスポーツの記事の多くは、プロ選手と大会の話です。しかしこの数年、まったく違う場所からeスポーツに関わる人が増えています。特別支援学校、就労移行支援事業所、介護予防の「通いの場」、地域包括支援センター。競技として勝つことを目的にしていない人たちが、対戦ゲームを囲んでいます。

身体を大きく動かさずに勝負が成立するという性質は、eスポーツの弱点として語られることが多いものです。ところが、その同じ性質が「これまでスポーツに参加しづらかった人が参加できる」という利点に転じる場面があります。車いすの人と歩ける人が同じ条件で対戦でき、80歳と20歳が同じ画面で競える。この特性に目をつけた実践が、障害者福祉と高齢者福祉の両側から立ち上がってきました。

一方で、期待が先行しやすい領域でもあります。「eスポーツで認知症が予防できる」といった言い方は、現時点の研究の水準を超えています。何が実際に行われていて、効果についてどこまで言えるのか。本稿では、機器・団体・就労・介護予防・自治体施策の順に、執筆時点(2026年9月)で確認できる範囲を整理します。制度や数値は今後変わる可能性があります。

操作できるかどうかを決めるのは機器の側

参加の可否をまず左右するのは、コントローラーです。標準的なゲームパッドは、両手の指が10本とも自由に動くことをおおむね前提に設計されています。片手しか使えない、指の力が弱い、手指の細かい動きが難しいといった条件では、この前提が崩れます。

この壁を正面から扱ったのが、マイクロソフトの「Xbox Adaptive Controller」です。2018年に発売されたこの製品は、それ自体が完成したコントローラーというより、外部の入力機器をつなぐハブに近い構造をしています。本体には大きなボタンが2つと方向パッドがあり、背面の端子に、押しボタン式のスイッチ、足で踏むペダル、口で操作する機器、大型のジョイスティックなどを接続して、自分に合った操作環境を組み立てられます。開発にあたっては The AbleGamers Charity や SpecialEffect といった、障害のある人のゲームプレイを支援してきた団体が関わりました。

同社は2025年に「Xbox Adaptive Joystick」も発売しています。片手での操作を想定した単体のジョイスティックで、アダプティブコントローラーと組み合わせるほか、単独でも使えます。

同じ発想の製品は、ソニー・インタラクティブエンタテインメントからも出ています。PlayStation 5用の「Access コントローラー」は2023年12月6日に全世界同時発売されました。形状の異なるボタンキャップやスティックキャップを同梱し、360度どの向きからでも使える円形の筐体を採用しています。3.5mmの拡張端子を4つ備えており、市販のスイッチ類を接続して自分の操作に合わせられる設計です。開発にはアクセシビリティの専門家が関わったと説明されています。

こうした純正品が出そろったことの意味は、価格や入手性だけではありません。それまでは、支援機器を扱う事業者や当事者団体が個別に改造していた領域に、プラットフォーム側が公式の受け皿を用意したということです。改造機がオンライン対戦で不正とみなされるリスクや、故障時に修理先がないという問題が、一定程度は解消されます。

据置機やPCの側でも、ボタン配置の入れ替え、連射の設定、字幕やテキスト読み上げ、色覚特性に配慮した配色、視覚効果の低減といった設定項目が標準機能として増えました。これらは特定の障害のためだけの機能というより、疲れやすい人・見えづらい人・聞こえづらい人を含めた幅広い層に効きます。競技の公平性という観点では、大会ごとに使用できる機器の範囲が定められるため、支援機器がどこまで許容されるかは主催者の規定次第という状態が続いています。

「バリアフリーeスポーツ」を掲げる団体

日本では、障害のある人のeスポーツを事業として担う団体が複数立ち上がっています。

代表的なのが株式会社ePARAです。「バリアフリーeスポーツ」を掲げ、視覚障害・肢体不自由・聴覚障害など、異なる条件の人が同じ場で対戦できるイベントを継続的に開催してきました。音だけで戦う格闘ゲームの企画や、支援機器を使った参加者と一般参加者が同じ卓に着く形式など、「配慮された別枠」ではなく「同じ場に混ざる」設計を志向しているのが特徴です。

一般社団法人障がい者e-スポーツ協会は2019年10月に設立され、兵庫県を拠点に、障害のある人向けの大会を全国へ広げることを掲げています。ほかにも一般社団法人日本障がい者eスポーツ協会日本パラeスポーツ連盟といった団体があり、後者は2026年3月に『ぷよぷよeスポーツ』を種目とする「Japan para esports festival 2026」を予定しています。

団体が複数併存している状況は、統括団体が一本化されていないことを意味します。障害者スポーツが日本障がい者スポーツ協会のもとで整理されてきたのに比べると、パラeスポーツの制度的な位置づけはまだ定まっていません。

とりわけ議論が分かれているのが、クラス分けの扱いです。パラリンピック競技では、障害の種別や程度に応じて競技区分を設け、条件の近い者どうしで競わせるのが基本になっています。一方、eスポーツでは支援機器によって操作の差をある程度まで埋められるため、区分を設けずに全員を同じ枠で戦わせるという考え方が成り立ちます。実際、日本の団体が主催するイベントには、障害の有無で分けない形式のものが少なくありません。

ただし、区分を設けないことは万能ではありません。反応速度や連続入力の回数が結果を大きく左右するタイトルでは、機器で埋めきれない差が残ります。逆に区分を細かくすれば、参加者が分散して大会が成立しにくくなる。どこで線を引くかは、タイトルの性質と参加者の規模によって変わります。この難しさは、年齢で線を引くときの議論とも構造がよく似ています(コラム「eスポーツに年齢制限は必要か」)。

就労支援という出口

障害者eスポーツの実践が、福祉の文脈で注目を集めた理由のひとつは、就労と接続しうる点にあります。

障害者雇用促進法は、企業に一定割合以上の障害者雇用を義務づけています。民間企業の法定雇用率は2023年の見直しを経て2024年4月に2.5%となり、2026年7月からは2.7%に引き上げられました。これにより、常用労働者37.5人以上の事業主が対象に含まれます。制度が求める水準は上がっている一方、達成企業の割合は長く5割前後で推移してきました。

ePARAは、eスポーツのイベント運営そのものを仕事の場として使っています。大会の運営業務、配信の補助、記事の執筆、Webマーケティングなどに障害のある人が関わり、その実績をポートフォリオとして企業とのマッチングにつなげるという設計です。コミュニティ「ePARA学園」もこの流れの一部にあたります。

この方式の意味は、「ゲームがうまい人がプロになる」という道筋とは別の出口を用意した点にあります。競技で頂点に立てる人はごく一部ですが、大会が成立するために必要な仕事は競技の外側に大量にあります。eスポーツ産業の職域については、コラム「eスポーツ選手のセカンドキャリア」でも扱いました。同じ構造が、障害のある人の就労支援にも適用されているわけです。

もっとも、この形が広く再現できるかは別問題です。イベント運営の仕事は繁閑の差が大きく、安定した雇用に直結しにくい。支援側にゲームと福祉の両方を理解する人材が必要になる点も、拡大の制約になります。

企業側の受け止め方にも幅があります。法定雇用率を満たすための採用としてeスポーツ関連の職務を切り出す動きは、業務の切り出し自体が目的化しやすいという指摘を受けやすい領域です。一方で、配信の編集やコミュニティ運営のように、在宅で完結し、成果物で評価できる仕事は、通勤や対面のやりとりに負担がある人にとって実際に働きやすい条件を備えています。どちらの面も同時に存在しているのが現状です。

介護予防の現場に入った高齢者eスポーツ

高齢者側の動きは、行政の施策と結びつく形で進んでいます。

千葉大学予防医学センターの社会予防医学研究部門は、日本eスポーツ連合(JESU)と日本アクティビティ協会の監修のもと、「高齢者のつながりと健康を育むデジタルアクティビティのすすめ〜介護予防・通いの場の新しいカタチとしてのeスポーツ導入ガイド〜」(略称「高齢者eスポーツ導入ガイド」)を公開しました。自治体や福祉関係者が高齢者向けのeスポーツを始めるときに必要な情報を、機材の選び方、実施上の注意点、効果測定の考え方、事例まで含めてまとめたものです。

このガイドが想定しているのは、介護保険制度における「通いの場」です。住民主体で運営される体操やサロンの集まりを指し、介護予防の中心的な受け皿として位置づけられてきました。ただし、屋外での活動は梅雨や猛暑に弱く、体操が中心だと身体機能に不安のある人が入りづらいという課題があります。座ったまま参加でき、天候の影響を受けないeスポーツは、この隙間に合う活動として提案されています。

実際に採用されている種目は、競技シーンで扱われるタイトルとはかなり異なります。『ぷよぷよeスポーツ』『太鼓の達人』『グランツーリスモ』、あるいはボウリングや卓球を模した体感型のゲームなど、ルールが直感的で操作が単純なものが中心です。「勝敗をつける」ことより、集まって声を出し、人の名前を覚えて次も来る、という循環をつくることが主眼に置かれています。

導入ガイドが機材や運営上の注意点にページを割いているのは、この分野に固有の障壁があるためです。画面の文字が小さくて読めない、コントローラーのボタン配置を覚えられない、音量設定が合わない、会場の回線が足りない。競技シーンでは前提として片付けられる要素が、高齢者向けの現場では毎回の課題になります。運営側にゲームの知識がないまま機材だけ導入して、置き場所に困るという失敗も報告されてきました。

同じ「eスポーツ」という言葉が指しているものが、障害者福祉と高齢者福祉の現場ではかなり違う点にも注意が必要です。おおまかに整理すると次のようになります。

障害者eスポーツ高齢者eスポーツ
主な目的社会参加・就労・交流介護予防・孤立の防止
主な担い手民間団体・就労支援事業所自治体・地域包括支援センター・介護事業者
財源事業収入・企業からの協賛自治体予算・介護予防事業
競技性重視する場合がある基本的に重視しない
評価の軸参加機会・就労実績継続率・社会参加の指標

効果はどこまで分かっているのか

期待が語られる一方、根拠の水準には注意が必要です。

高齢者eスポーツをめぐる国内の報告の多くは、参加人数が十数人から数十人規模の実証事業です。たとえば東大阪市では、大阪産業大学の研究者による「eスポーツによる高齢者の健康状態改善効果の検証」の報告書が公開されています。こうした取り組みでは、実施前後で認知機能検査の点数や心理面の指標が改善したという結果が報告されることがあります。

ただし、こうした設計には限界があります。対照群(eスポーツを行わない同条件の集団)を置かない前後比較では、検査に慣れることによる点数の上昇や、そもそも意欲の高い人が参加しているという偏りを切り分けられません。効果を主張するには、無作為化を伴う比較が必要になります。

その水準の研究も始まっています。千葉大学のグループは、千葉市の老人クラブを対象とするクラスター無作為化比較試験を臨床試験登録(UMIN000052772)のうえで進めています。また同グループからは、高齢者のゲーム利用が趣味の会への参加や友人関係の増加を通じて社会的孤立を減らしうるという方向の報告も出ています。

現時点で比較的言いやすいのは、「外出や交流の機会が増える」という社会参加の側面です。認知機能や身体機能への効果については、研究が積み上がっている途中と理解しておくのが妥当でしょう。健康との関係をどう語るかという難しさは、コラム「ゲーム障害をめぐる議論」で扱った論点とも重なります。

自治体とイベントでの実装

行政の側でも、障害の有無を越えた交流の場としてeスポーツを使う事業が出てきました。

東京都は「つながる!eスポ TOKYO」として、障害のある人とない人がeスポーツを通じて対戦・交流する取り組みを行っています。毎年1月に東京ビッグサイトで開かれる「東京eスポーツフェスタ」でも、パラeスポーツの企画が組まれてきました。2026年1月に開催された東京eスポーツフェスタ2026では、ePARAがパラeスポーツプレイヤーとのエキシビションマッチを実施しています。

自治体がeスポーツに関わる動機は、地域振興や関係人口づくりから始まったものが多く、その流れはコラム「eスポーツと地域創生」で整理しました。福祉分野での活用は、そこに健康施策・共生社会施策という別の理由が加わった形になります。予算の出どころが変われば、事業の評価軸も変わります。来場者数ではなく、参加者の継続率や社会参加の指標で測られるようになる点は、従来のeスポーツイベントとの大きな違いです。

残された課題

広がりつつある一方で、いくつもの障害が残っています。

第一に、機材と場所の費用です。アダプティブコントローラーやスイッチ類は数千円から数万円の単位で必要になり、複数人が同時に遊ぶには台数分の機器と回線が要ります。介護施設や小規模な支援事業所にとって、この初期投資は軽くありません。

第二に、担い手の不足です。ゲームの操作を教えられ、かつ障害特性や高齢者の身体状況を理解している人材は多くありません。導入ガイドのような文書が整備されつつあるのは、この不足を補う狙いがあります。とはいえ、文書だけで代替できる部分には限りがあります。単発の体験会は開けても、月に何度も続く活動として定着させるには、現場に運営できる人が残る必要があります。外部の事業者に委託して実施した取り組みが、委託期間の終了とともに止まってしまう例は、自治体のeスポーツ事業全般に共通する課題です。

第三に、語り方の問題です。障害のある人がゲームで活躍する場面は「感動的な物語」として消費されやすく、当事者の側からその扱いへの違和感が示されることもあります。競技として真剣に扱うのか、福祉的な活動として扱うのか。両方が同じ現場に混在している以上、主催者は誰に向けた場なのかを明示する必要があります。

第四に、健康リスクへの配慮です。座位を長時間続けること自体の負担は、年齢や身体状況によってはより大きくなります。プロ選手の身体管理を扱った「eスポーツ選手の身体をどう守るか」で触れた論点は、姿勢を保ちにくい参加者にはより厳しく当てはまります。休憩の設計や座位時間の上限を、あらかじめ運営に組み込んでおく必要があるでしょう。

eスポーツが福祉の現場に持ち込まれてから、まだ10年に満たない領域です。効果の検証はこれからで、制度上の位置づけも定まっていません。それでも、「参加できる人の範囲を広げる」という方向自体は、競技シーンの側にも無関係ではないはずです。誰が画面の前に座れるのかという問いは、この競技の裾野の広さをそのまま決めています。

本稿は執筆時点(2026年9月)の公開情報にもとづいて整理したものであり、医学的な助言ではありません。健康や体調に関わる判断は、必ず医療・介護の専門職に相談してください。