対戦格闘ゲームの多くは、1秒間に60回、内部の状態を更新しています。つまり1フレームは約16.7ミリ秒(1000÷60)です。プレイヤーはこの刻みのうえで、相手の技を見てから防御するか、割り込むか、投げを抜けるかを判断しています。上級者どうしの読み合いでは、1フレームや2フレームの差がそのまま勝敗になります。

ところが、この16.7ミリ秒という単位は、ネットワークを挟んだ瞬間にあっけなく崩れます。東京と大阪のあいだでも往復の通信には数ミリ秒から十数ミリ秒がかかり、東京とソウルなら数十ミリ秒に届きます。1フレームぶんの猶予しかない判断に、1フレーム以上の遅れが乗る。競技としてのeスポーツが長らくオフライン開催にこだわってきた理由は、根本のところではこの一点に尽きます。

この記事では、遅延(レイテンシ)がどこで生まれ、ゲーム側がそれをどう吸収してきたのかを、開発者や検証記事が公開している情報からたどります。格闘ゲームの「ロールバックネットコード」と、FPSの「ティックレート」という、性質の異なる二つのアプローチが軸になります。記述は執筆時点(2026年9月)の公開情報にもとづきます。

遅延はネットワークの外側でも積み上がる

まず押さえておきたいのは、プレイヤーが体感する遅れの合計が、通信の遅れだけで決まるわけではないという点です。コントローラーのボタンを押してから、その結果が画面の光として目に届くまでには、入力デバイスの読み取り、ゲーム内部の処理、映像出力、ディスプレイの表示という工程が挟まります。それぞれが数ミリ秒ずつを積み上げていきます。

この「積み上がり」を実測した例として、ライターの西川善司氏が2021年に『ストリートファイターV』で行った計測があります。NVIDIA の LDAT(Latency Display Analysis Tool)という測定器を使い、アーケードスティックのボタン押下から画面が変化するまでを直接計った結果、60Hz環境の PlayStation 4 版でおよそ110ミリ秒という値が報告されました。16.7ミリ秒に換算すれば6フレーム以上です。

同じ検証では、PC版を高リフレッシュレートのディスプレイで動かし、垂直同期の設定を変えると、60Hz時と比べて40ミリ秒以上短縮できたことも示されています。一方で PlayStation 5 は PlayStation 4 よりわずかに遅い結果になったとされ、新しいハードウェアほど速いとは限らないことも分かります。ここで効いているのは機材の世代ではなく、映像を何回描き直すか、どのタイミングで画面に送るかという設計上の選択です。

つまり、オフラインの大会であっても遅延はゼロではありません。大会が機材を統一し、同じディスプレイ・同じ本体・同じ設定で全員に戦わせるのは、遅延を消すためではなく、全員の遅延をそろえるためです。競技として担保すべきなのは「速いこと」ではなく「同じ条件であること」だという考え方は、eスポーツ大会はどうつくられるのかでも触れた運営の基本線と重なります。機材そのものの選び方は競技を支えるハードウェアで扱っています。

ディレイ方式――遅れを全員に配って同期させる

ネットワーク越しの対戦で長く使われてきたのが、「ディレイ方式」と呼ばれる同期の仕組みです。考え方は単純で、自分の入力をすぐには反映せず、相手の入力が届くまで意図的に待ってから、両者の入力を同時に処理します。こうすれば、双方の画面には常に同じ内容が表示され、ゲームの状態がずれることはありません。

問題は、この「意図的に待つ」ぶんがそのまま操作の重さになることです。相手との通信距離が遠くなるほど待ち時間は伸び、ボタンを押してからキャラクターが動き出すまでの間隔が広がっていきます。格闘ゲームのように、相手の動きを見てから数フレームで反応することが技術として要求される競技では、この遅れは単なる不快さではなく、実行できる行動そのものを減らしてしまいます。

さらに厄介なのは、この方式では相手の回線品質が自分の操作感を決めてしまう点です。自分がどれだけ良い環境を用意しても、相手の通信が不安定であれば、その影響を等しく引き受けることになります。オンラインでの練習と、オフライン大会での本番とで、できることが変わってしまう。日本の格闘ゲームシーンでオンライン対戦の戦績が長く「参考記録」の扱いを受けてきた背景には、こうした技術的な事情がありました。

ロールバック――先に動かして、間違えたら巻き戻す

これに対して2000年代後半から広まったのが「ロールバックネットコード」です。中心にあるのは、入力予測巻き戻しという二つの発想です。

ロールバック方式では、相手の入力が届くのを待ちません。相手が直前と同じ操作を続けると仮定して、自分の入力は即座に反映し、ゲームを先に進めてしまいます。数フレーム後に相手の実際の入力が届いたとき、予測が当たっていればそのまま続行します。外れていた場合は、予測を始めた時点まで内部状態を巻き戻し、正しい入力で計算し直して、現在のフレームまで一気に再シミュレーションします。プレイヤーから見れば、自分の操作には遅れがなく、外れたときだけ相手のキャラクターが少し飛んだように見える、という挙動になります。

この仕組みを実装したミドルウェアが GGPO です。開発したのは Tony Cannon 氏で、世界最大の格闘ゲーム大会 EVO(Evolution Championship Series)の創設メンバーの一人としても知られています。GGPO は2019年10月に MIT ライセンスで公開され、誰でも利用・改変できる形になりました。それ以降、対戦格闘ゲームのネットコードとしてロールバック方式が事実上の標準になっていきます。

日本国内での認知が一気に進んだのは、既存タイトルへの後付け実装が体験として分かりやすかったからでもあります。2020年に Steam版『GUILTY GEAR XX ΛCORE PLUS R』へ GGPO が導入された際の公開テストでは、ping が30ミリ秒程度であればほぼオフラインと変わらない感覚で対戦でき、60ミリ秒前後でも精密な入力が通り、100ミリ秒前後になるとキャラクターの飛びが目に見えるようになる、といった手ごたえが報告されています。300ミリ秒を超えると対戦として成立しないという評価も同時に示されており、ロールバックが万能ではないことも分かります。

『ストリートファイター6』もロールバックネットコードとプラットフォームをまたぐクロスプレイに対応しており、これは2022年の Summer Game Fest の場で明らかにされました。国内リーグの整備と、オンラインで練習できる環境が同じ時期に噛み合ったことは、闘劇からEVOへ、格闘ゲーム競技化の40年で述べた競技化の流れを、実務の面から後押ししたと言えます。

巻き戻せる範囲には上限がある

ロールバックが成立するのは、巻き戻す量が一定の範囲に収まっているあいだだけです。実装ごとに何フレームまで遡れるかの上限が決められており、それを超える遅れが生じた場合は、結局どこかで待つか、対戦を中断するしかありません。巻き戻しの計算そのものにも負荷がかかるため、上限を無制限に伸ばせるわけでもありません。

また、巻き戻しの対象になるのはゲームの内部状態だけです。すでに鳴った効果音や、画面に出てしまった演出を消すことはできません。そのため実装によっては、修正が入った瞬間に音と映像が食い違って見えることがあります。プレイヤーが「ラグかった」と感じる場面の多くは、通信が遅かったこと自体ではなく、この修正の見え方に起因しています。

見方を変えれば、ロールバックは遅延をプレイヤーの操作感から相手の描画へ移し替える技術だとも言えます。自分の入力は常に即座に効くが、そのぶん相手の姿は必ずしも正確ではない。どちらの不便を引き受けるかという選択であり、競技として重要なのは前者だという判断が、シーン全体で共有された結果が現在の標準になっています。

FPSは「サーバーが時間を刻む」

一方、FPS やバトルロイヤルのように多人数が同じ空間で同時に動くジャンルでは、格闘ゲームと同じやり方は使えません。プレイヤーどうしが直接つながるのではなく、中央にゲームサーバーを置き、全員がそこへ入力を送って結果を受け取る形をとります。このとき重要になるのが、サーバーが1秒間に何回、世界の状態を更新するかという値――ティックレートです。

Riot Games は『VALORANT』で128ティックのサーバーを採用しています。128ティックは1秒を128回に分けるということなので、1回ぶんの持ち時間は約7.8ミリ秒です。同社が公開している技術記事によれば、開発初期には1フレームの処理に50ミリ秒近くを要しており、そこから最適化を重ねて2ミリ秒未満まで短縮したとされています。1台の物理サーバーで多数の試合を同時に走らせる前提があるため、1試合あたりの処理予算はさらに小さく見積もる必要があった、とも説明されています。

ティックレートを上げると、撃った瞬間の位置関係がより細かく記録され、当たり判定の判定精度が上がります。ただし、サーバー側の刻みを細かくするほど、プレイヤーとサーバーのあいだの通信遅延が相対的に目立つようになります。サーバー内部のゆらぎで隠せていた差が、そのまま結果に出るからです。だからこそ Riot は Riot Direct と呼ばれる自前のネットワーク基盤を敷き、各地の回線事業者と直接つないでサーバーまでの経路を短くする、という取り組みを続けています。それでも、物理的な距離が生む往復時間だけは短縮できません。

この「距離だけは縮まらない」という制約は、アジア太平洋のように広い範囲を一つのリーグでまとめる場合に、実務上の難題として現れます。日本・韓国・東南アジア・オセアニアの選手が同じサーバーで戦えば、誰かが必ず遠い側に置かれます。国際リーグが試合会場を各国持ち回りにしたり、シーズンの節目で集中開催地を移したりするのは、興行上の理由だけでなく、この不均衡を一シーズンのなかでならすという意味も持ちます。

サーバー方式にはもう一つ、ロールバック方式には無い性質があります。判定の最終的な決定権が、プレイヤーの端末ではなく運営側のサーバーにあることです。これは不正対策の面では大きな利点で、クライアント側の改変で当たり判定を書き換えるといった手口が通りにくくなります。競技の公正さを機械的に担保する仕組みとして、サーバー権威型の設計が採られている面もあります。不正行為をめぐる攻防そのものについては、チートとインテグリティで扱っています。

ジッタとパケットロス――平均値では見えないもの

遅延を語るとき、多くの場面で使われるのは ping の平均値です。しかし競技環境で実際に問題を起こすのは、平均そのものよりもそのばらつきであることが少なくありません。往復時間が20ミリ秒と40ミリ秒のあいだで細かく揺れる回線と、常に安定して35ミリ秒の回線とでは、平均値はほとんど変わらないのに、体感と成績への影響は大きく異なります。この揺らぎをジッタと呼びます。

ロールバック方式にとって、ジッタは平均遅延より厄介な相手です。予測を何フレーム先まで行うかは、直近の通信状況をもとに調整されます。往復時間が安定していれば予測の外れ方も一定に収まりますが、揺れが大きいと修正の量が毎回変わり、相手の動きが不規則に飛ぶことになります。ティックレートの高いサーバー方式でも事情は同じで、サーバーが細かく状態を刻んでいても、そこへ届く入力の間隔が乱れていれば精度は上がりません。

もう一つの要素がパケットロスです。送ったデータの一部が届かなければ、そのぶんの入力は欠落するか、再送を待つことになります。無線接続が競技環境で避けられるのは、平均遅延が有線より数ミリ秒大きいからというより、電波状況によってジッタとロスが跳ね上がる可能性を排除できないからです。大会規定で有線接続を求める例が多いのは、この再現性の問題に対応するためです。

家庭の回線側でも、同じ回線を共有している他の機器の通信、ルーターの処理能力、経路の混雑といった要素が積み重なります。オンライン予選に臨む選手が、対戦の時間帯に合わせて宅内の通信を止めたり、ルーターの設定を見直したりするのは、こうした変動要因を一つずつ潰していく作業です。競技として見れば、これも準備の一部と言えます。

それでもオフライン大会が残る理由

ロールバックが普及し、サーバーの性能も上がった現在でも、規模の大きい大会はオフラインで行われます。理由は複数あります。

第一に、条件をそろえられることです。会場に同じ機材を並べ、同じ LAN 内に閉じたネットワークを組めば、往復の遅延はミリ秒未満に抑えられ、参加者間の差もほぼ消えます。第二に、不正への対処です。ネットワークの遅延を意図的に発生させる行為や、外部ツールの併用は、オンラインでは検知が難しく、オフラインでは端末と周辺機器を管理下に置けます。第三に、興行としての価値です。観客の反応や実況・解説を含めた場そのものが商品になる点は、eスポーツ配信はどうつくられているかeスポーツ施設は日本に根づくのかで扱ってきた通りです。

現実の運用としては、多くの大会が「予選はオンライン、決勝はオフライン」という組み合わせに落ち着いています。参加のハードルを下げて母数を確保しつつ、上位の順位づけは条件の揃った場で決める、という折衷です。地理的に離れた地域をまたぐリーグでは、サーバーの設置場所を持ち回りにしたり、遠征を伴う集中開催を挟んだりして、往復時間の偏りをならす工夫も行われています。

この折衷には運営側の経済的な事情も絡みます。オフライン開催には会場費、機材の搬入と設営、参加者の移動と宿泊、当日のスタッフといった費用が発生します。数千人規模の予選をすべて会場で行うことは現実的ではなく、逆に決勝までオンラインで済ませれば、観客動員とスポンサー露出という収益の柱を失います。技術的な公平性の要請と、興行としての採算のあいだで落としどころを探った結果が、いまの二段構えの形式だと言えます。

競技条件をそろえるという点では、オフラインにも固有の課題があります。会場の照明の映り込み、遅延特性の異なる予備機材、長時間の待機による疲労など、通信以外の変数が新しく入ってきます。オフラインが「完全な公平」を意味するわけではなく、統制しやすい変数の種類が入れ替わる、と理解しておくのが正確です。

遅延を前提に設計するという発想

技術の側から見て興味深いのは、ここ十数年の流れが「遅延をなくす」方向ではなく、「遅延があることを前提に、それを見せない」方向へ進んできたことです。ロールバックは通信を速くしていません。予測を外したときの修正コストを、人間が気づきにくい形に置き換えているだけです。128ティックのサーバーも、通信距離を縮めるわけではなく、サーバー側の解像度を上げて判定の再現性を高めています。

このアプローチは、競技の評価軸にも影響します。オンラインでも実力を測れる環境が整うほど、地方在住の選手や、遠征費を用意しにくい若い選手が、最初の実績を積みやすくなります。日本の格闘ゲームシーンで、オンライン主体で頭角を現した選手がそのまま国内リーグに入っていく事例が増えたのは、この十年の変化と無関係ではありません。選手の育成や分析の実務がどう変わってきたかは、eスポーツのコーチは何をしているのかでも触れています。

一方で、遅延を「見せなくする」処理が高度になるほど、何が起きているのかがプレイヤーから見えにくくなる、という側面もあります。負けた原因が読み合いにあったのか、予測の外れによる巻き戻しにあったのかを、当事者が切り分けられないことがある。この点をどう扱うべきかについては、開発者・大会運営・選手のあいだで見方が分かれており、決着した議論とは言えません。

近年は、ゲーム側が対戦相手との ping や接続品質を対戦前に提示したり、対戦中の通信状態を画面に表示したりする実装も増えています。何が起きたのかを事後に確認できるようにするという方向で、透明性を高める試みだと言えます。もっとも、表示される値がどの区間を測ったものかはタイトルごとに異なり、数字だけを比べても意味を持たないことが多い点には注意が必要です。

数字を読むための最低限の目安

最後に、遅延に関する数字を読むときの目安を整理しておきます。いずれも競技の種類や実装によって意味が変わるため、単独の数値だけで優劣を判断しないことが前提です。

用語意味目安
1フレーム60fps のゲームの1更新ぶん約16.7ミリ秒
ping(RTT)自分と相手(またはサーバー)の往復時間30ミリ秒以下なら影響は小さい
ティックレートサーバーが1秒に世界を更新する回数128ティックなら約7.8ミリ秒に1回
システム全体の遅延入力から画面表示までの合計環境により数十〜100ミリ秒超

数値を比べるときに大切なのは、どこからどこまでを測った値なのかを確認することです。ping はネットワークだけの値であり、ディスプレイの表示遅延は含みません。逆に LDAT のような実測はすべてを含んだ合計値です。同じ「遅延」という言葉でも、指している区間が違えば桁が変わります。

競技としての公平性を考えるうえでは、絶対値を小さくすることよりも、参加者のあいだで値をそろえられるかどうかが問われます。オフライン大会が残り続けているのは、技術が追いついていないからではなく、条件をそろえるという要件が、いまのところ会場に集まることでしか完全には満たせないからです。

観戦する側にとっても、この視点は役に立ちます。オンライン予選で強かった選手がオフラインの決勝で結果を残せなかったとき、その差を「本番に弱い」という一言で片づけるのは、おそらく正確ではありません。操作の感触が変わり、機材が変わり、観客の視線が加わる。変数が入れ替わったなかで実力を出し切ることそのものが、この競技における技術の一部だと考えたほうが、起きていることをよく説明できます。

16.7ミリ秒という単位は、人間の知覚のぎりぎり手前にあります。意識して区別できる長さではないのに、積み重なれば勝敗を左右する。eスポーツの技術史が、この見えない単位をどう扱うかという工夫の連続だったことは、競技としての性格をよく表しているように思われます。